日本人はあからさまに他人と比較したりされたりすることが嫌いだ。そこでもしも自分の方が劣っていることが明らかになったら立場がなくなるからだ。だからどっちが優れていてどっちが劣っているのかの白黒をつけたがらない。しかし欧米人はその辺りにドライである。自分が劣っているなどとは思わない。それよりも自分がどれほど優れているかをアピールするのが大好きだ。
アメリカでは比較広告が普通に行われる。自分の会社の商品とライバル社の商品を並べて詳細なデータを挙げて「我が社の商品はあの商品と比べてこんなに優れています」と大きな声で叫ぶ。「どうだ!」と言わんばかりに。
比較広告というものは”比較する対象”をはっきりさせなければいけない。A社とB社のこの商品とあの商品の間にはこれだけの差があるんですとデータで示すのだ。だから感覚的でデータにならないようなものを比較しても意味がない。かつてペプシコーラはM.C.ハマーが本番前に飲むコーラをこっそりコカコーラとすり替えておいて本番のノリが悪くなるというCMを日本で公開した。すると日本のマスコミは消費者からの「いやらしい比較広告はやめろ」という苦情に屈してコカコーラの画像をぼかした上に「コカコーラ」というセリフを「他のコーラ」に差し替えた。しかしこれは比較広告でもなんでもない。ステージのノリの良さは数値では比較できないからだ。
それほどまでに日本のメディアや企業は広告というものを理解していない上に、反対意見が出るとすぐに方針を変更して事なきを得ようとする。
以前も書いたが、ボクが知る限り日本で一番比較報告に近いものを出したのがさくらカラーの小西六(現:コニカミノルタ)だ。CMではライバル社の製品には言及しなかったがカメラフィルムの広告で欽ちゃんこと萩本欽一さんに「4枚増えて値段は同じ。どっちが得か、よ~く考えてみよう」と言わせた。この時には欽ちゃんの国民的人気もあってかクレーム騒ぎにはならなかった。
その他のフィルム会社は限られていたし富士フイルムやコダックは全て20枚撮りで値段も横並びだったわけだから競合会社の名前など出さなくても明らかだ。しかも20枚と24枚が同じ値段ならどっちが得かだと思いますか?明らかでしょ?と具体的な数字を出して比較している。しかしこれ以来今に至るまで残念ながらこれと同様のCMすら目にしたことはない。
世の中には単純に白か黒かで決められるようなことなど滅多にない。白と黒の間にはさまざまな色のグラデーションが限りなく連続的に連なって濃淡を織りなしている。だから比較広告と言ったって製品のある一つの特徴だけを捉えて比較しているに過ぎない。それでも日本人は物事にはっきりと白黒つけるのが苦手で常に玉虫色の落とし所を探そうとする。
自然の中では形も色もあらゆるものは玉虫色だ。白黒がはっきりしているものなどない。もしかしたらそんな自然や四季を大切にする日本人独特の感性がそうさせているのかも知れない。
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