知りたいことには順序がある

「アレ、大丈夫かなぁ?」なんて言っている人がいる。知り合い同士の会話なんてその程度で通じるんだね、と思っていたら話しかけられた人に「アレって?」「大丈夫って何が?」と訊き返されていた。いわゆるひとつのヒトリヨガリ。何も通じていなかったわけだ。主語が代名詞では伝わらないなら一般名詞や固有名詞を使わなければいけないし、目的語がはっきりしなければ何を言っているのかわからない。スペイン語でも主語が省略されることは多いが、そのあとの動詞が格変化をするので「私」のことなのか「彼」のことなのか「彼女」のことなのか「現在」のことなのか「過去」のことなのか「未来」のことなのかが分かるようになっている。日本人は外国語を勉強するときだけは妙に文法好きになるが、こと日本語の文法には徹底的に無頓着だ。

テレビを見ていると時折画面の隅っこにニュース速報などが流れる。ほとんどの場合は取るに足らないニュースなのでどうでもいいことなのだが、それが地震速報の場合にはまったくもってイライラさせられる。地震に対してではない。ニュース速報を流している放送局に対してである。メディアはニュースを情報を整理して内容が”重要”な順に”簡潔”に伝えることが仕事だ。1「いつ」、2「誰が」、3「何を」、4「どうした」を適切な順序で伝えればいいだけだ。「どうした」を最初に言っても仕方がない。だが内容によっては順序を入れ替えたほうがいいときもある。

例えばピョンチャンオリンピックでスピードスケートの小平選手が金メダルを取ったというニュースを伝えるなら第一報は「小平奈緒金メダル、女子スピードスケート初の快挙!」でもいいだろう。金メダルならオリンピックの話題とわかるし今は韓国でピョンチャンオリンピックが開催されていることは多くの人が知っている。そして小平選手が日本選手団の団長を務めていて金メダルが期待されている選手だと知っている人も多いだろう。女子スピードスケート500mの種目だったことやオリンピック記録だったこと、タイムが36.94秒だったことはあとで伝えれば済むことだ。これを見た人は「小平選手、金メダル取れたんだねー」と思うだろうし「よかったね~」「すごいね~」と思う人も多いはずだ。その時に「小平選手は何歳なの?」とか「小平選手はどこの出身なの?」と細かく知りたい人はひとまず少ないだろう。第一報として必要十分な内容だ。

一方で地震速報だ。定型文でしょっちゅう現れるくせにまったくダメだ。まず第一に出す情報の”順番”がダメだ。

1.◯◯時〇〇分ころ(強い)地震がありました
2.念のため津波に注意してください

揺れた地域にいて地震を感じた人は「そんなのわかってるよ」と思うだろう。では地震を感じなかった人はどうだろう。「え?どこで?」とは思わないだろうか。なのにそれを無視するかのように第二報では津波に注意するように警戒を促している。地震があったということが分かっているなら大雑把に「どこで」も分かっているはずである。それが分からなければ地震があったことすらわからないのだから。

まず最初に「どこで」を伝えなければ地震速報の意味は全くない。細かい時間や震度の情報などあとでいいし、そもそも速報を出すのだから「今」に決まっている。地震速報を見た人の初動に必要なのは「どこで」ではないだろうか。どこで、が分かれば「津波来るかも」と考えることもできる。揺れは感じなかったが逃げる必要があることも稀ではない。逃げるか留まるかを判断するのは「どこで」だ。関東地方で地震があったとしても関西や西日本、沖縄の人が即座に行動しなければならない必要性は低いだろう。第二報、第三報を聞いてからでもいいはずだ。全員が求めている情報は

1.△△地方で(強い)地震がありました
2.念のため津波に注意してください

ではないのか。
地震速報が始まった頃からその内容はまったく変わっていないし変えようという気も見られない。情報を司る中枢を自負しているマスコミの割に意識レベルが低いと言わざるをえない。
地震速報は娯楽のバラエティとは違うのだ。
そんなことも考えられないのならメディアなどいらない。