定型業務なら前もって”手順を決めて”練習すれば、多くの人はだんだんうまくこなせるようになる。それは応用力がいらないからで単純な作業を繰り返せば片付く仕事で考えて判断する必要がないからだ。作業中に考える必要がないから作業しながら他のことを考えることができる。

天才物理学者と呼ばれ相対論を世に問うたアインシュタインは、ノーベル賞の授与式で記者に「次に生まれ変わったら何になりたいですか?」と質問されて、「水道工事屋」と答えたとか答えなかったとか。それは彼が水道工事屋を「何も考えずにできる仕事」だと思っていたからで、「仕事をしながら特殊相対論の続きを考えることができるから」と思っての発言だという。

この初夏から巷では新型コロナワクチンの接種が盛んになっている。自宅の近くにある市役所も集団接種会場になっており、たびたび長蛇の列ができている。ガラス張りの1階の大きい部屋が会場になっているので、前を通りかかるたびに中の様子を垣間見ることができる。

この会場では、検温→受付→診察→接種→次回の予約→経過観察という手順が決められており、それぞれの担当者は分かれて配置されているので接種を受ける人は書類を持って会場内をグルグルと巡ることになる。企業や学校などで毎年行われる健康診断に似ている。それぞれのコーナーでは担当の人がやるべき手順が単純にマニュアル化されているので、普段は別の仕事をしている市役所の職員でも間違いなく案内できるようになっている。この「誰でも間違いなく」単純作業を組み上げるために一番大切なことだ。

今回のような一時的に多くの人数をこなす作業のためには様々な部署からの”応援”が必要になるが、おそらくこんな状況はいつまでも続かないだろう。これがいつまでも続くようなら担当者もいつかは作業に飽きてしまう。一時的で一定期間で終わる作業なら「より効率的に」を考えて作業を組み直すより、間違いなく一定期間で終わらせることが重要だ。”考える”ヒマがあったら間違いなく作業をこなす方が重要だ。

最近、障がい者福祉で「農福連携プロジェクト」というものに関わる機会があった。人手不足で高齢化が進む農家と就業先が見つからない障がい者を結び付けて双方の問題を解決していこうというプロジェクトだ。その過程では「障がい者に農作業なんてできるのか」という懐疑的な意見も聞かれたが、実際に取り組んでいる現場では、「やるべき作業を単純化して手順を決めて繰り返し作業をする」ことをうまく実現できているところが大きな効果を生み出していた。

普通の平凡な人なら単純作業にはすぐに飽きてしまうが、ある種の障がい者はその特性として「決められた手順を守らない」ことにガマンできなかったり、自分が気に入った単純作業を飽きることなくいつまでも続けることで満足を得られたりする。これはいわゆる「健常者」は持っていない特性だ。健常者はすぐに作業の手抜きをしたり飽きてしまったりする。

最近は”多様性”ということが叫ばれているが、このような特性も適材適所の一つなのだろうと思う。そうやっていつか多くの人が幸せになれる社会が出来あがればいいのにと思う。