アメリカでカリフォルニアロールが話題になっていた数十年前、「こんなのは寿司じゃねぇ」という人も多かった。確かに日本の寿司にはないネタをご飯で巻いて、海苔は内側に隠されてしまったものを寿司だと言われても、「これはねぇ〜」と多くの日本人が否定的だった。今でも回転寿司を含む日本の寿司屋でカリフォルニアロールを見かけることは少ない。

でもそれは決して日本で売ろうとしていたわけではないし、生の魚介類をなくし、欧米人に不人気だった海苔という黒い食べ物を目立たないようにして、アメリカ人が好きなアボカド、マヨネーズを使い、日本らしさを出すためにカニ蒲鉾を入れたものだった。今でもアメリカ人の寿司初心者はカリフォルニアロールで酢飯に慣れてから日本の寿司を楽しむ人が多いという。

いくら和食が世界遺産に認定されたとはいえ、普通の欧米人は必ずしも「日本古来の寿司」が必ずしもいいとは思っていない。世界中どこに行っても食べ物は普段から食べ慣れたものが好まれる。日本人だってオーストラリアの奥地に行って、「御馳走ですよ」と言われて芋虫のソテーが出て来たら最初はギョッとするに違いない。

今や日本の国民食とまで言われているラーメンやカレーだって、その原型は海外から入って来たものだ。カレーはインドで食べられていたものがイギリスでカレーになり、そこで作られたカレー粉が日本に輸入されて発展したものだと言われているが、今では日本各地で様々な形に変化し、カレーパンまで人気になっている。でもインド人はそれを否定することはない。日本でもよく食べられている「インドカレー」にしたところで本場インドの料理とはかけ離れたものかもしれない。それでもインド人は日本のカレーを美味しいという 。

最近よく見かける子供に人気の寿司ネタのサーモンだって、長野県でよく食べられているというサラダ巻きだってちょっと前までは寿司ネタですらなかった。でも今では”寿司の本場”の日本人が喜んで食べているし、「こんなの寿司じゃない!」などという人はいない。

どこにいても何を食べていても、食べ物はそれぞれの好みに合わせて変わっていくものだしそれでいいと思う。食べる人が「美味しい!」というのならどこの何という料理だって日本料理だしその国の料理でもある。日本人だって「和食」を食べる機会などあまりない。和食と言いながらいろいろな国の料理の技法や材料を取り入れた日本ならではの日本食だ。

変なこだわりを持って、誰かが美味しいと思っている料理にケチをつけて貶すのは心が狭いといわざるを得ない。あえて「多様性」などという言葉を使わなくても、料理には自然と多様性が染み込んでいくものだと思っている。