作曲家の中村八大さんが亡くなった。数年前に亡くなった永六輔さんとのコンビで作られた曲は多い。思い出せるだけでも「こんにちは赤ちゃん」や「遠くへ行きたい」、「上を向いて歩こう」など、昭和な人間なら一度は聴いたことのある曲ばかりだ。それはかつてのNHK番組「夢であいましょう」の中で「今月のうた」として創られたものらしい。

「夢であいましょう」はちょうどボクが生まれた頃に放送されていた番組で、ボクは観たことがない。黒柳徹子さんや越路吹雪さん、三木のり平さんや渥美清さんなど、昭和の大スターたちが出演していたらしい。若き日の坂本九さんも出演していたという。九ちゃんの歌は「上を向いて歩こう」や「見上げてごらん夜の星を」、「明日があるさ」などが有名で誰もが口ずさめる歌だった。1985年に起きたJAL123便のジャンボ機墜落事故で不慮の死を遂げてしまったのは返す返すも残念なことである。

♪ 上を向いて歩こう 涙がこぼれないように… ♪

曲のイメージとは反対に、寂しさを紛らわせるような歌詞だ。
悲しい時に悲しんで涙を流すことは自然なことかもしれない。でも涙を流したくなるほど寂しくて悲しい時だからこそ、「泣くもんか !」と上を向いて歩こうとする仕草には、ただ悲しいという気持ちを超えて「ガマンする」という美学を感じたりする。

以前にも書いたが「悲しい時には楽しいふりをしてごらん」という詩の一節がある。悲しい時に悲しむことは普通だ。でも悲しんでいる姿を見て「嬉しい!」と思う人は少ないと思う。自分が悲しい時に悲しい気持ちでいれば、悲しみはさらにリフレインしてますます悲しくなってしまう。その悲しさはさらに悲しい態度として現れる。

いつまで経っても悲しさから抜け出せないのなら、いっそのこと自分を偽って「悲しい時にこそ楽しいふりをしてみる」のも一つのやり方かもしれない。よく言われるが、「理屈で納得しても人の感情は変えられない。でも感情は行動に伴う」と。頭では分かっていても感情は理屈で動くものではない。

だから「衝動買い」は理屈ではない。どれだけセールスマンに「この商品は素晴らしいものですよ」と理屈で説得されても、人は欲しくないものは買わない。でも他人がどんなに下らないものだと言っても、自分が「欲しい!」と思った時には思わず買ってしまう。感情と行動は直接繋がっている。衝動は感情だ。

反対に頭ではそう思っていなくても、自分がひとたび行動に移した時にはその行動に感情は引きずられるのだ。「上を向いて歩こう」と行動していると、上を向いて歩くことが幸せを見上げているような気持ちになって、寂しさや悲しみが希望へと変わっていくのかもしれない。この歌はそんな気持ちにさせるのである。