ダイバーの間ではとても有名な四国・高知県の柏島という場所がある。四国の南西部、足摺岬の近くである。東シナ海から流れてきた黒潮が直接ぶつかる場所にあって、南日本でみられる魚の多くが観察されているダイバーにとってはパラダイスのような海だ。ボクも過去に何度か訪れたことがあるが、陸上も海中も伊豆半島のような雰囲気なのに、見られる魚はパラオや沖縄のようである。

柏島の民宿に3〜4日泊まって連日ダイビングを楽しんでいたのだが、楽しい休暇にも終わりはやってくる。新宿から夜行バスでJR高知駅までやってきたボクは、帰りも高知駅から夜行バスに乗ることにしていた。当時は高知から柏島までの高速道路もなく、柏島から最寄駅の宿毛(すくも)という駅まで路線バスで出て、そこから高知駅まではJRの「アンパンマン号」に乗ろうと思っていた。

民宿で朝食を食べていた時にそんな話をしていたら同じテーブルで食べていたオバチャンが、「そしたら高知まで車乗ってくか?」と話しかけてきた。路線バスとJRの乗り継ぎも悪かったので、「じゃあお願いできますか?」ということになり、柏島から高知まで、オバチャンとドライブデートと相なった。

車内で話を聞いてみると、オバチャンは今や「うどん県」で有名な香川県讃岐市に住んでいるのだという。四国を旅したことのある方はご存知だと思うが、四国では香川県に限らずどこに行っても”うどん推し”である。お昼になって「どこかで昼食を」ということになったが、ドライブインも見当たらないので街道沿いのスーパーでうどん弁当を買って車内で食べることにした。

ただの冷やしうどんの弁当なのだがなかなか美味しい。「さすがに四国のうどんはスーパーの弁当でも美味しいね」と言ったら、「それじゃ帰ったら本場讃岐のうまいうどんを送ってやる」ということになった。その後、旅行で香川を訪れたが当時はまだ本場の讃岐うどんを食べたことがなかったので大喜びしたのだった。

やがて高知に近づいたが、高知駅からの夜行バスは夜出発なのでどうしたものかと思っていたら、「どっか行きたいとこはあるけ?」と聞かれた。高知といえば何と言っても坂本龍馬だ。「ミーハーだけど、桂浜の龍馬像を見に行きたい」と言ったら、「ミーハー、上等! 見に行こう」と言って連れて行ってくれることになった。

ご覧になったことのある方はご存知だが、桂浜の龍馬はデカい。身長が5mほどもある。それが8mほどの台座の上に立って太平洋を睨んでいるのである。さすがにこの大きさには圧倒された。圧倒されて見上げていたらオバチャンが「ミーハーだろうが何だろうが、見てみなけりゃわからんものがある」と言った。まさに百聞は一見時しかずだ。見に来てよかったと心から思った。

そして夜行バスに乗って帰宅してからしばらくして、オバチャンから本場讃岐のうどんがチルドゆうパックで送られてきた。段ボールの蓋を開けてみるとそこにはカトキチの「冷凍讃岐うどん」がどっさりと入っていた。たぶんカトキチが関東でも売られていることを知らなかったのだろう。それまでもカトキチのうどんは美味しいと思っていたが、これで本場の讃岐人のお墨付きを得たわけだ。

その後、オバチャンとはオバチャンが富士五湖観光に来た時に1日をともにしたのだが、「こっちでも冷凍讃岐うどん、売るようになったんだねぇ」と話していたのがちょっと可笑しかったが黙っていた。富士五湖を観光した後、小田原方面まで戻って金太郎の足柄山や洒水の滝などを案内したが、「やっぱり見られる時には本物を見ておかないとね」と笑っていた。

今はコロナで思うままにはできないが、いつか落ち着いた時には讃岐のオバちゃんの言葉を思い出して旅に出ようと思っている。