走るべきか止まるべきか

とある病院の待合室でのこと。健康診断で訪れた僕の隣のベンチで話し込む二人の中年婦人がいた。

「あたしは最近体力が弱ってきたせいか腰痛が出て、先生に相談したらコアマッスルっていうのを鍛えると改善するかもっていうんでトレーニングに通ってるのよぉ」
「へぇ~、それって効くの?」
「すぐに実感できるってわけじゃないけど、週1回3ヶ月くらい続けてたら歩いても疲れにくくなった気がするのよ」
「おたくのご主人も腰痛持ちなんでしょ?一緒に行ってるの?」
「勧めてるんだけど『そのうちそのうち』って言って全然ダメね」
「あぁ~めんどくさがり屋だもんねぇ、おたくのご主人」

物事にはやるべきタイミングがある。やるべき時を逃すとあとになって後悔しても取り返しがつかないこともある。そんな時にいつも思い出すのは飛行機が離陸する時の話だ。

飛行機が滑走路から離陸するときにはエンジンを全開にして加速しながら滑走する。時速0km/hだった機体はエンジンの強力なパワーでグングンと加速していく。やがて時速200km/hを超える。V1(ブイワン)、離陸決定速度。今、急ブレーキをかければ飛行機は離陸することなく滑走路内で安全に止まることができる。これを過ぎてしまえば止まろうとしても機体は滑走路をオーバーランしてしまうので、更に加速して離陸するしかない。機体に何らかのトラブルがあれば決断するのは今しかない。加速し続ける機体はやがてVR(ブイアール:操縦桿引き起こし速度)、V2(ブイツー:安全離陸速度)となって離陸をするのである。

何事にもやるべき最終限界点がある。それ以降は取り返しがつかないという点だ。病気でいえば”手遅れ”ということになる。ビジネスも同じである。つまり最初から離陸(ビジネスが安定)する速度(V2)を出せる見込みがないなら離陸を開始するべきではないが、V1(無事にビジネスを畳める時期)を超えてしまったら無傷で元に戻ることはできないということである。先の病院で話題になっていた”ご主人”も同じである。腰痛が今どれくらいの速度で悪化しているのか知る由もないが、手遅れになってしまえば取り返しのつかない結果が待っているということである。病気の進行は「離陸中止!」という訳にはいかない。
体力を強化すべきときなのに先送りしている人は、取り返しがつかなくなってから「やっておけばよかった」と後悔する。