高齢者モデル

老人ホームのパンフレットなどに出てくる高齢者のモデルは、概してみんなにこやかに微笑んで天国で暮らしているような笑顔をしている。もちろんそう感じさせることが目的なのだから、ボクはまんまと引っかかっているという訳だ。引っかかっているというと語弊があるかも知れない。そこは本当に天国のような場所なのかも知れない。

ボクはまだ高齢者施設のお世話になるにはまだちょっと年齢が若い。しかし訳あっていくつかの高齢者施設を訪問する機会があった。もちろんそこには高齢の男女が暮らしている訳だが、中には加齢などによって身体が思うように動かせなくなって普段の生活にも介護が必要な人もいる。

足腰が弱り、歩くのに杖や歩行器が必要な人がほとんどで中には車椅子の方もいる。もっとも施設内を歩いている姿を見かけることはあまりなく、大抵はサロンと呼ばれるリビングでテレビを見たり友達とおしゃべりをしている。人と会うことが面倒だと思う人は自分の部屋で一人で過ごすことになる。

実際の高齢者施設でパンフレッタに出てくるような仏様のような笑顔をした人に出会うことはあまりない。あれは多くの場合高齢者モデルだ。実際の住人はもっと高齢で淀んだ目をして覇気のない表情をしている。いや、表情などないといったほうが正確かも知れない。耳が遠いので声をかけても振り向くこともない。テレビを見ている人もおやつを食べている人も無表情で、ヘルパーさんが口に運んでくれる食べ物を無表情で黙々と食べ続けている。

だからといってそれがつまらない毎日なのかといえばそれは人それぞれだ。ある人は「別にやりたいことがあるわけでもないし」という。穏やかに静かに毎日が過ごせればそれでいいのだという。若い頃はいろいろなことをやったり旅行に行ったりしたが、今ではもうそんなことをしなくてもいいと思うようになったのだという。それが老いていくということなのかも知れない。

高齢者施設に天使のような笑顔をした住人はほとんどいない。「そんなことはわかってる」という人がほとんどなのだろうが、ボクが広告を見てイメージしていた高齢者施設とのギャップが大きすぎて最初は面食らった。でも笑っていないから幸せではないのかといえばそんなこともないのだろう。ボクにはまだ見えない老境がきっとあるに違いないと思っている。

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください