お客様が感じる”価値”を考えてみませんか?

スキューバダイビングというマリンスポーツはご存知のことと思います。以前はバブリーだったこともあって若者に人気のレジャーでした。しかし最近では若者人口の減少や中高年世代のダイビング離れもあって、以前ほどの盛り上がりはありません。いや先細りの状況といったほうが正確かもしれません。若者人口の減少は日本全体の傾向ですから業界で何とかできるものではないにしても、中高年のダイビング離れには何かしら手が打てそうなものです。

中高年のダイビング離れにはいくつかの要因があって「体力の減少」「親の介護によって心の余裕がない」「他の趣味(登山など)への転向」「仕事が忙しくなった」「ダイビングへの興味が薄れた」など理由は様々です。しかし経済的な理由というのはあまり耳にしません。実際、ダイビング自体は一度始めてしまえばランニングコストはゴルフなどと比べれば割合に安い趣味です。また年齢の上昇に伴って可処分所得も増加する傾向があるので「お金がないから海に行けない」という声が少ないのは当然のことでしょう。

■血液に溶け込んでいく窒素の恐怖
さてスキューバダイビングでは海の中を潜るのですから息をするためにいわゆるアクアラングという装備をつけて潜ることになります。背中に空気ボンベを背負ってそこから供給される空気で呼吸するわけですが、ここには一つ問題があります。水に潜ると周りから相当な水圧を受けることになります。ボンベには高い圧力で圧縮された空気(酸素ではありません)が入っていて、水中で人間は、水圧で肺が潰されてしまわないように圧縮空気を吸って呼吸することになります。空気の成分の半分以上は”窒素”という成分ですが、窒素はとても血液に溶けやすい性質を持っているのです。高水圧下の水中で血液中にタンマリと窒素が溶け込んでしまったまま浮上して体にかかる水圧が急に弱まると、コーラの缶を開けたときのように溶け込んでいた窒素(コーラの場合は炭酸ですが)が血管の中で泡のように気体になって膨らみ、血管を詰まらせてしまうことになります。いわゆる”潜水病”と言われている症状です。重篤な場合には命を落とすこともあります。

■ナイトロックスという選択肢
こういったリスクを減らすために、最近ではボンベの中の窒素の量を薄めて酸素の量を増やした”エンリッチド・エアー”という空気を使って潜水するやり方も一般的になってきました。一般的には「ナイトロックス」などと呼ばれています。僕も数年前からほとんどすべてのダイビングでこの空気を使っています。普通の空気に比べるとボンベ1本あたりの値段は若干高くなりますがリスクの軽減を考えたら安い選択です。特に中高年になると”血液ドロドロ”になって障害を起こす可能性も高くなると言われているのでなおさらです。ところが実際にダイビングの現場に行ってみるとナイトロックスを使っている人は驚くほど少ないんです。全体の1割にも満たないといってもいいでしょう。

■旧態依然の営業努力
お客さんが暫減しているダイビング業界。長い間、若い人にライセンスを取らせて高価な器材を売りつけてはそれっきりで放っぽらかし。利益率の低いダイビングツアーを実施するのは、更に高い器材を売りつけるためのセールスとしか考えてこなかった、そんなダイビングショップは近年になってバタバタと潰れていきました。でもそれ以外のお店はどうしていたのでしょう? 前述のような「”悪徳”ダイビングショップとは違うのだ」という信念のもとに低価格で良質なサービスを目指しているお店も多いのだと思います。トイレ付きの快適なダイビングボートを導入し、初心者にも安心で丁寧な接客を心がけてきたお店もたくさんあります。そうやって新規のお客を一人でも多く取り込もうと努力している姿は涙ぐましい限りです。しかしバブルの頃のような”安かろう悪かろう”でも構わない学生や若年層へのセールスをこれからも続けていくことに未来はあるのでしょうか? アクティブなダイビング客の年齢層は毎年1つずつ高くなっているのにです。今のお客さんは何を大切にしているのでしょう? 快適なボート?美しい海?珍しくて美しい魚達? もちろんそれもあるでしょう。でも歳を重ねてピークをだいぶ過ぎた身体と心が求めているのはそれだけではないはずです。

■あなたのお客さんは誰ですか?
以前からセールスでは売る相手を絞り込むことが大切だというお話をしてきました。誰からも好かれ、誰もが欲しいと思わせるようなセールスをしても、結局は誰の心にも響かない結果になってしまうのです。モノやサービスが溢れた現代、”貴方のために特別に用意したもの”でなければ誰も心を動かさなくなったということです。
継続的にダイビングを続ける年齢層は毎年確実に上昇しています。なのに若年層の新規客ばかりをターゲットにセールスをすることは果たして効率的なのでしょうか? 「1円でも安く」ダイビングができることを売りにするセールスが今のターゲットにウケると思っているのでしょうか? 自分自身の健康や長寿、美食、ラグジュアリーを求める世代には少し見当違いに思うのは僕だけでしょうか?

■ライフタイム・バリューという考え方
売上を上げるにはいくつかの方法があるというお話も以前から何度か話題にしました。新規客を増やす方法もあれば既存客や休眠客の掘り起こしを行うことも一つのやり方です。そして既存のお客さんの離反率を減らすまたは単価を増やしていくことも地味ですが大切な要素です。そしてそれは新規客の取り込みよりも10倍も効率がいいのです。先にお話した「ナイトロックス」というやや高価なボンベを使っていただくことは、ダイビングショップにとっては仕入額が増加するだけで単価を上げても利益の向上に繋がらないかもしれません。でも今の中高年世代にとって”生涯健康でいること”や”老後にも好きな趣味を続けていくこと”は大きなテーマです。お客さんにそういった安全で快適という”価値”を提供していくことは、ひいてはお店に価値が還元されることにも繋がってゆくのです。

単純に「売上を伸ばそう」とか「利益を増やそう」と思うことは自然なことです。しかしそれはお客さんが感じる”価値”に対してお客さんから支払われるものです。今のお客さんにとっての価値とは何なのかを新年の今、もう一度白紙に戻して考えてみるのはいかがでしょうか?