美しきカクテル

もう30年も前のことだが、本屋の中をブラブラしていたら一冊の本が目に入った。美しいカラー写真の表紙には華奢なグラスはカラフルな液体で満たされている。ボクが最初に出会ったカクテルブックであり、これがカクテルとの出会いだった。

すでにハタチをずっと前に通り過ぎ、お酒が好きなホテルマンだったボクは手当たり次第に色々なホテルのバーに通い始めた。カクテルは色も綺麗だが種類によって使うお酒の種類も違うので香りや味わいがそれぞれに異なる。

好きなカクテルは人それぞれだがボクはコアントローというオレンジリキュールとレモンジュースにスピリッツを加えてシェイクしたものが好きだった。スピリッツをジンやウォッカ、テキーラ、ブランデーなどに変えるとまったく違ったカクテルになるのが不思議だった。

そして最初に出会ったカクテルブックを作った「バー・ラジオ」という店に行ってみることにした。それは表参道の細い路地にあった。店に入るとカウンターの後ろに並んだグラスの数々が目に入る。普通のバーではリキュールのボトルが並んでいる場所に果てしない数のグラスが並んでいた。

カクテルはお酒が注がれるグラスによっても雰囲気が大きく左右される。それぞれに異なるグラスの厚みが唇に当たった時の肌触りを演出する。ボクは割と薄めのグラスにシャルトリューズのグリーンを合わせたカクテルが好きだった。シャルトリューズは薬草を漬けたリキュールでスパイシーな香りのするお酒だ。グリーンとイエローの2種類が日本では一般的でどちらもアルコール度数は50度から70度と比較的高めだ。

バーラジオのカウンターには骨董品のようなグラスもあり、客は好みのグラスを指名して飲ませてもらうことができた。そこには100年前のバカラや250年もののダンヒルまであり手にするのも緊張したが、これらで飲むカクテルは格別だった。

「右奥のバカラでアラスカを」なんてオーダーすると「ちょっとチップしちゃってるんですが」とバーテンダーは言うが、150年も経てばどんなに大切に扱ったところでチップするのは仕方がない。それがアンティークグラスの宿命であり味なのだ。

今はもう店もなくなってしまったが、思い出すたびにほろ苦いマティーニを思い出させる素敵な店だった。

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