今年に入ってから新型コロナウイルスの感染拡大の影響でもうずっと経済活動が大きな影響を受けている。もちろんすべての人や企業が打撃を受けているわけではないが、おそらく80%以上の人がなんらかのダメージを受けているだろう。このような感染症が世界的に流行することは決して予測できないことではなかったはずだが、誰もそんな事態が突然現実のものになるとは考えていなかったに違いない。

大手航空会社も大手鉄道会社もバス会社もホテルもテーマパークもレストランも居酒屋も、インバウンド頼みだった日本の観光地もあらゆるところが悲鳴をあげている。人々は出かけなくなり外食することも控えた。仕事もテレワークやオンライン会議が多くなり、それはそれで新しい可能性を目の当たりにすることができたという意味では悪いことばかりではなかった、が…。

ボクはこんな事態になる前から、というよりボク自身もこんな事態がいきなりやってくるとは思ってもいなかったのだが、著書「直感でわかるマーケティングの本」の中でも「新規顧客を獲得することは大切だが、まずは既存顧客のリピートを増やすことが肝心だ」とずっと言ってきた。なぜなら新規客を増やすには経費もかかるし確率が低いからだ。もちろん新規セールスをまったくしなくてもいいという意味ではない。

既存客はなんといっても、少なくとも1度は自分のところの商品やサービスを使ってくれたことのある人だ。その分最初に「使ってみよう」と思わせるハードルは圧倒的に低くなる。人は新しいものに手を出したり今使っているものを変更することに大きな抵抗感を感じる。知っているというだけでも大きなアドバンテージだ。

それでも「使いたくない」という人は以前に我々のサービスを使ってひどい目に遭った人かもしれない。ボク自身も先日、ヒューレットパッカード(HP)のお客様サービスの担当者の対応があまりにも酷かったので「おたくの製品は金輪際買いません」と言って電話を切った経験がある。それでもその担当者が「あぁそうですか」と言ったのでこの会社はもうダメだなと思った。しかし一度ひどい目に遭っている人は、少しでも改善されていれば却って満足してくれる可能性も大きい。汚名挽回のチャンスでもある。

他者と競争する上では商品やサービスの満足度を上げることも大切だが、一番短絡的なのは値下げ競争である。「安ければ売れる」とは無能な経営者でもすぐに思いつく。というよりそれしか考えられない経営者のなんと多いことか。しかし今までと同じものを安く売れば、売上は下がり利益は減少する。では同じ値段でサービスを向上させたらどうだろうと考えてみる。つまり顧客満足度(CS)を上げるわけだ。

新製品を開発するよりも新規顧客の開拓をするよりもサービスや応対を改善することは圧倒的に安価に実行できる。実行できるがそのためには顧客と接する最前線の現場のモチベーションが高くなければ絵に描いた餅になってしまう。では現場のモチベーションを上げるにはどうすればいいのか。ここでまた無能な経営者は単純に「給料を上げればいい」と考える。もちろん給料を上げることも大切だが、誰もが金のためだけに働いているわけではない。

たぶん誰でも、今の自分の仕事は他の仕事よりも多少は好きなはずだ。やり方もある程度わかっているし、少なくとも素人がやるよりはずっと上手に出来る。「こうしたらもっと楽になるのに」というアイデアを持っている人もいるだろう。何よりもお客さんに喜んでもらうことができるならモチベーションはもっと高くなる。それが人というものだ。

性能は今までと同じでも、ちょっとした心遣いで顧客満足度が上がればもう一度買ってもいいかな、行ってみてもいいかなと思う人が増えるかもしれない。顧客満足度を上げることはとりもなおさずお客様に喜んでもらうことである。かつてマクドナルドが「スマイル0円」と言っていたようにそのための費用はほんのわずかだ。

今回のような全世界的な危機の中では人々の心は萎えて、新しく何かを始めようというモチベーションは起こりにくい。でも「いつか行ったあの店の応援になるなら」と思えば行動を起こす理由にもなりうる。誰かを助けるため、誰かを喜ばせるためになるのならただ好きで遊びに行くのとは違う。大義名分が立つわけだ。なんの世界でも同じだが大義名分は大切だ。筋が通っていなければ納得できる人は少ない。

事実、リピーターを大切にしている店では他の店の売上が9割減というときにも7〜6割減で抑えられたという話も聞いた。「リピーターさんに助けられました」という人も多かったのである。もちろん7〜6割の売上が減少すれば存続の危機だ。大きな危機だがこんな状況の中で少しは持ちこたえる力も温存できる。

日本の携帯電話3社は既存顧客をないがしろにしすぎた。この報いは遠くない将来に受けるだろう。