先日、ひょんなキッカケでヘリコプターに乗る機会があった。乗客5人乗りの小型ヘリコプターだ。それは空港の滑走路の片隅にちょこんと停まっていた。小型の単発ヘリには1つのメインローター(主回転翼)と尾部に付けられたテールローターがある。文字通りメインローターは揚力を生み出し、テールロータがメインローターの反動で回転しようとする機体を真直ぐに保つためにある。

ヘリコプターとの出会いは幼稚園の頃、遠足で行った横浜ドリームランドの遊覧ヘリコプターだった。目の前で実際に見るヘリコプターに興奮したものの、50年以上前の当時でも5分程度の遊覧飛行が5000円もした。当然庶民の我が家が乗れるようなシロモノではなかった。

それがチャーターヘリに乗るチャンスがいきなり現れた。通常なら15分で10万円もするチャーター料が3万円/機ちょっとで乗れるというのだ。1も2もなく搭乗を決めたのは言うまでもない。

当然だがヘリコプターは滑走路を使わない。”H”と書かれた大きなサークルから直接飛び上がる。キュルキュルというセルモーターの音とともにエンジンがかかり回転翼がゆっくりと回り始める。しばし暖機運転を行いいくつかの点検を済ませたら管制塔と無線交信をして離陸体勢に入る。回転を上げたローターは「まるで本物のヘリコプターのような」音とともにふわりと舞い上がった。

セスナのような小型飛行機には何度か乗ったことがあるが、ヘリコプターの離陸は何とも頼りない。強風の吹く中、空港の誘導路の上をフラフラと横切って高度を上げた。眼下には東シナ海が広がっている。

高度にして200mくらいだろうか。海の上では比較対象物がないのでどれほどの速度で飛んでいるのかさっぱりわからない。ゆっくりと30km/hくらいの速さで飛んでいるような気もするがもっと速いのかもしれない。

10分ほどするといくつかの島影が見えてきた。山の尾根筋や海岸線を見下ろすとかなりのスピードだ。30キロも離れた島まで10分ほどで付いてしまうのだから平均して180km/hほどのスピードが出ているわけだ。180km/hといえば新幹線の最高速度よりはやや遅いものの、レーシングカーほどのスピードである。

ほどなく我らを乗せたヘリは小さな島の小さな空港に向かって降りていく。空港にはヘリポートを示す”H”マークはないが、律儀に滑走路の上をゆっくりとホバリングしながらターミナルビルの前に進んでいく。「ヘリのローターの下では立ち止まらないでください」とあらかじめ案内されていたので、さぞかしすごい爆風が吹いているのかと思いきや、ヘリから降りたその場所は意外にも無風だった。

映画などでは、ヘリコプターから降りてくる007などの主人公は、猛烈な風に吹き飛ばされそうになりながら走ってくるが、実際のヘリコプターから降りたときにはメインローターの下では風が吹いていない。意外な事実である。もちろん空中でホバリングしているようなヘリの下では猛烈な風が吹き付けているはずだが、着地したヘリから風が吹き付けることはなかった。

ヘリコプターのローターというのは回転する付け根の部分で角度が変えられるようになっている。つまり上昇するときには下(地面)に向けて風を送るが、着地しているときには上(上空)に向けて風を送って機体を地面に押し付けて安定させているわけだ。だからメインロータの下では上空に向けて扇風機の風を送っているようなもので下向きの風は起こらない。意外なことに乗ってみて初めて実感したのである。

15分間のボクのヘリコプター初体験は当たり前だと思っていたことをいくつも覆す貴重な体験になった。やはり何事も経験しなければわからないことはあるのだと改めて感じた夏の終わりの出来事だ。