グルメ番組や旅番組、バラエティで名物料理や高級食材を使った料理が出てくると、出演しているタレントや芸人たちは揃って口に入れた瞬間に声を上げる。「美味いっ!」「美味し〜い!」「甘〜いっ!」「優しいお味ぃ〜!」異口同音に料理を褒めちぎる。それは番組の構成やゲスト出演者、スポンサーもいるのだから褒めないわけにはいかない。

でもそんな簡単にありきたりのセリフを喋っていいのかという気もする。せめてウソでも少しは味わって美味しそうな演技をしようとは思わないのだろうか。誰もが感じていることだが物の味や香りは光のようの高速度で瞬間的に感じるものではない。舌にある味蕾で5つの味覚を感じ取り、鼻の奥で香りを感じ、食感や喉越しと合わさって一つの味になる。

口に入れた瞬間には熱い冷たいくらいしか感じない。それは味覚とは関係ない感覚だ。人の神経の伝達速度はロバが歩く程度の速さだと言われている。いくつもの感覚を感じた信号が脳に集まってそれらを処理して初めて「何を食べたか」を判断できるのだ。口にした瞬間(時には口に入れる前から)美味しいかどうかを判断できたらそれはエスパー(超能力者)だろう。

そんなことはテレビを見ている人も誰でも分かっている。テレビに出演して決められたセリフだけを早く口にしようとそればかり考えているから不自然になる。少しは常識的に頭を使った方が本当らしく見えるのにそれすら気づかない。

キャビア、フォアグラ、トリュフ、松茸、アワビ、ウニ、越前蟹など一般的に美味しいと言われるものを口にすると必ず瞬間的に叫ぶ。それは「キャビア=美味しい」「松茸=美味しい」という刷り込みがあるからセリフもすぐに口をついて出る。しかし本来人の好みはそんなに単純ではない。キャビアや生牡蠣を生臭く感じる人だっているしウニのグニュグニュした舌触りが嫌いな人だっている。

西洋人は日本に住むようになって長くなっても概してとろろ芋をすりおろしたものが食べられないという。食感が耐えられないほど気持ち悪いらしい。納豆や刺身が美味しく感じられるようになった人でもダメなのだそうだ。納豆が食べられるのに不思議な感じもするが自然薯などのネバネバは「腐ったもの」に感じられるという。日本人なら多くに人にとってトロロは美味しく感じられるものなのに習慣とはそういうものなのだろう。

マツコ・デラックスは番組の中でも自分が好きではないものを口にすると嫌そうな顔をして「これはダメね」などと言う。もちろんこれも演出上のポーズなのだろうと思うが、彼女(彼?)の演技がうまいところは、時折そういうマイナスの態度を見せることで「美味しい!」と言った時の信憑性を高めているところだ。本当に美味しいと思っているかどうかはわからないが、スポンサーやゲストに義理立てするならその程度の気遣いをするのがプロフェッショナルの仕事でないかと思うのだ。