本は予言する

外出の自粛だ叫ばれたり自宅勤務の指示が出されたりして多くの人が家にいる時間が増えた。初めのうちはおとなしく家の中にとどまっていた人も1週間経ち2週間経ち、1ヶ月も経つと飽きてくる。子供だって「好きなだけいくらでもゲームしていいよ、でも家から出ちゃダメ」と言われるとさすがにゲームにも飽きてくるらしい。

動画配信の映画もあらかた見尽くしてしまったからといってYouTubuに興味のない人は動画を見るのにも疲れてくる。そしてたどり着くのは「読書」だ。本を読まなきゃ、本を読む時間がないと言い訳していた人も、通勤時間のなくなった今なら時間は有り余るほどある。しかもその時間を家の中で費やさなければならなくなった時に読書はかなり安い解決策だ。

今まで”読まなきゃ”と思っていた本が自宅を山積みしている人でもなければ(そんな人も多いと思うが)何の本を読んだら良いのかわからないということも多い。そこで今流行最前線の”伝染病大流行”系の小説が流行っているのだという。

そこで今、マスコミやネットでも話題になっているというカミュの「ペスト」という小説をAmazonで検索してみたらなんと売り切れているではないか。あっと驚くタメゴローである。本が廃刊になるという話は最近よく聞くが、売り切れるという話はあまり聞かない。

こんなところでも人はみんなと同じことをしたがるものなのかとちょっと恐ろしく感じた。もっとも電子書籍なら売り切れることもなく買ってその場でダウンロードしてスマホでも読めるのだからいい時代である。

かつて映画にもなった「復活の日」も原作の本や映画の配信が人気らしい。それを観たり読んだりした人の話によれば「今の現実を予言しているようで恐ろしくなった」と言っていた。確かに生まれてから経験したことのないような今の状況下では「これは予言されていたんだ」と思う人もいるだろう。しかし考えてみればSF小説家など想像力のある人にとっては今の状況など起こるべくして起きたと思っているのかもしれない。

”予言”と言って思い出されるのは東日本大震災の時の出来事だ。防災の専門家でもある河田恵昭さんという関西大学の先生が2010年12月に出版した「津波災害」という本だ。ボクがこの本を読んだのは2011年の6月、東北を大津波が襲って壊滅的な被害を受けた後だった。だから読んだ時には「結果論だよな、あとからだったら何とでも言えるさ」と思ったのだが、実はこの本はその前の年には出版されていた本だった。

その中で津波災害のことを克明に語っている。地震が来て津波警報が発令されても実際に避難行動を起こす人は5〜6%に過ぎないということ。しかし素早く避難することで多くに人の命は助かるのだということ。それは東北地方の被災地をつぶさに見てきて書いているかのような描写だった。だからボクも「起きたことに後から理屈をつけるのなら簡単だ」と勘違いするほどだった。その年の3月11日に起きたことがそのまま書かれているかのようだった。

さすがに福島の原発が事故を起こしてしまうところまでは言及されていなかったから「この本は何月の時点で書いたんだろう?」と不思議に思って巻末の発行日を見て驚愕したわけだ。これは予言されていた、と。

この本は出版される前年の2010年に起きたチリ地震によって三陸沿岸にも津波が押し寄せ、養殖イカダなどに大きな被害が出たことをきっかけに書かれたのだという。書かれていることは古くから津波多発のこの地方で昔から言い伝えられてきたことをまとめたものとも言える。

いつかまた必ずやってくる災害に備えて先人たちは多くの教訓を残している。しかしボクたちはそのことをすぐに忘れてしまう。だから古くからの教訓を集めるだけでも「予言」になるのだ。人はいつも大災害が起きたその後になって「天災は忘れた頃にやって来る」という寺田寅彦の言葉をしみじみと噛み締める。

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