開発物語はホンモノじゃないとね

ビデオや電子レンジのような電化製品でもインスタントラーメンやレトルト食品でもそれを開発するときには思いつきや独創的なアイデアと工夫、果てしない実験などの積み重ねによってトライアンドエラーを繰り返し長い時間をかけて世に発表されたものが多い。単なる思い付きだけで作ったものはすぐに誰かに真似をされるか既に一般的になっていて見向きもされないことがほとんどだ。

テレビドラマやドキュメンタリー、エッセイなのでその開発物語が扱われることも多い。「下町ロケット」やVHSビデオ、古いところでは電気洗濯機などがその物語の中心に据えられたこともあった。戦後間もない時期に北アルプス・立山連峰の山奥に作られた黒四ダムや青函トンネルの大型プロジェクトは映画にもなった。数年前にNHKの朝ドラでカップラーメンの開発物語が扱われたこともあったし電気洗濯機の公平な性能試験をしようとする婦人雑誌の女性編集長のメーカーとの対立や苦労が書かれたこともあった。

だがそれらはやはりドラマやドキュメンタリーという作り物であり、実際にはそこで演じられなかった細かな苦労や失敗が山のように山積していたはずで、恐らくそこにはドラマチックな大逆転劇もあっと驚く仰天のアイデアで解決したわけでもない地道な努力と忍耐だけで成し遂げられたものも多いはずだ。いや実際に商品開発などしていればその99.9%以上はそんなことの積み重ねである。

だがそれを一つ一つ取り上げていると膨大な時間がかかって2時間そこそこの映画や半年の朝ドラにはまったく収まらず、まったくの門外漢であろうそれを観るほとんどの人にも退屈なものになってしまう。だから(制作者が考える)退屈な部分を端折って大事件だけが取り上げられることになる。

以前、シティホテルを舞台にしたテレビドラマがあった。「姉さん、事件です!」と語りかける高嶋政伸のセリフは当時話題になったが、当時ホテルに勤めていたボクは単なる作り物としてしか見られなかった。そこで一緒に働いているホテルの同僚たちはいつも仲良く出勤したりしていたが実際のホテルのフロントやベルキャプテンは常に交替勤務で24時間常に誰かがいなければならない職場だ。だからみんなが揃って退勤するなど考えられない。

そしてそこで毎日起きる”事件”はドラマのように感動的ではない。取るに足らないようなことにクレームをつけてくるお客さんだったりスキッパー(料金を払わないで逃げてしまう客)、わがまま三昧のウォークイン(予約なしでいきなりやってくる宿泊客)対応などがほとんどでそういったことに1日のほとんどは忙殺される。そこに人間ドラマなどはないしホテルマンが関わるべきではないことがほとんどだ。

だからわざと作ったような開発物語やドキュメンタリーは「はいここは感動するところですよぉ〜」といういやらしいところばかりが鼻につく。もちろん自分が知らない世界のことなら「そうなのかぁ〜」と簡単に信じて感動するのかもしれないが、歳を重ねてそれなりに色々な現場を経験してくるとそうしたドラマがどこか御都合主義で最初からストーリーがが透けて見えてしまう。

開発がそんなにスムーズいうまく成功するわけはないことなどほとんどの大人は身を以て知っているのに、10年以上の開発物語など「みんな飽きてしまうだろう」という制作者の余計なお節介のせいですべてが軽薄でつまらないものになってしまう。そもそもすぐに飽きてしまうような人にはアニメでも見せていればいいのであって真面目な物語など見せる必要はない。軽薄な人間ばかりを相手にしようとするから日本はテレビも映画もつまらなくなってしまった。本質を追求する姿にこそ人を感動させる力があるのだと思う。

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