漢字を棄てた日本人

最近ではバラエティ番組だけでなくNHKのニュースなどでもインタビューされている人の話している内容をスーパーインポーズ(字幕)で表示することが多くなった。聴覚障害のある人や聞き取りにくい発音の時には重宝することも多いが、気になる点がある。その字幕に間違いが多いのだ。NHKニュースなどでは30分ほどの番組内で毎回1〜2箇所は間違っている。そしてそれを後で訂正するのだ。「夢が醒める」を「夢が冷める」など表示するのは日常茶飯事だ。

これは字幕を作っている担当者(恐らくは若者)が漢字を知らないからなのだと思う。知らないというと語弊があるが”書き慣れていない”のだ。今ではペンで紙に文字を書く機会がほとんどなくなり、パソコンやスマホ、タブレットで”文字を打ち込む”ことの方が遥かに多い。打ち込んだひらがなやカタカナ、ローマ字は瞬時に漢字に変換されてその候補が表示される。私たちはその中から適当だと思う漢字を選ぶだけだ。

ご存知の通り漢字は表意文字である。それに比べて欧米など他の多くの国で使われているのはアルファベットのような文字であり表音文字である。
”A”、”B”、”C”、”X”、”Y”、”Z”という文字自体に意味はない。それらはDNAの塩基配列のように多くの文字が組み合わさって初めて意味を持つ。

読んだ漢字の意味だけを理解しようとするならまだしも自分が書く文章の中でその漢字の意味をわかっていなければ正しく文章の意味を伝えることはできない。「夢が覚める」と書いたなら眠った状態で見ていた夢から目が覚めて”覚醒する”という意味になるし、「夢が醒める」なら抱いていた将来の夢が急に色褪せてしまうというような意味になる。

しかし「夢が冷める」と書いたならそれは何を意味するのだろう? 熱かった夢が冷えて冷たくなってしまったのだろうか。もちろん敢えて「夢が冷める」と書くことでその状況を的確に伝えようとすることもあるだろう。意図してその字を使うことで自分が伝えたい微妙なニュアンスを表すこともある。だから日本語は面白い。

敢えて本来の意味を持たせたくなかったり、外国人などが日本文化を間違って理解している様を強調するために漢字ではなくカタカナを使うこともある。

例えばワビサビなどだ。本来は華美なものを廃して虚飾を取り除くことで物事の本質を捉えようという思想を表しているのだが、昨今の外国人観光客を見ていると単に”粗末なもの”や”時代遅れで古臭いもの”を指して”侘び寂び”と言っていることがある。これは言うなれば「ワビサビ」だろう。

漢字やその使い方を知らない日本人が増えたのは明らかに本を、特に小説などの文学作品を読まなくなったからではないだろうか。漢字の使い方やその応用方法は本を読むことによって大いに高めることができる。普段自分が使っている言葉だけに限定すれば古い本など読まなくても十分にコミュニケーションは成り立つだろう。しかしそれだけでは世代を超えて何かを伝え合う力は弱まっていくような気がしている。

もしテレビマンがマスコミというメディアを生業としていると自覚しているのなら、くだらないお笑い番組ばかり作っているのではなくもう少し日本語を丁寧に使えるようになろうと思って欲しいものだ。誰かに何かを伝えるということは元来そういうものなのだと思う。スーパーインポーズの誤植を見るにつけそんな現実を突きつけられているようで悲しくなるのである。

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