内定辞退

一頃は「就職氷河期」などと言われて新卒学生の就職がままならない時期もあったが最近は少子高齢化による人手不足もあってか新卒大学生の就職内定率は87%以上、2社以上の企業から内定をもらっている学生も6割近くに及ぶのだという。就職が容易なことは学生にとっては悪いことではない。もっとも苦労している学生が一人もいないわけではないだろうからうれしい悲鳴をあげている一方で泣きの涙という人もいるのだろうと思う。

2社以上の企業から内定をもらえば本命以外の会社はケることになる。就活で苦労したかつての新卒学生からしたら羨ましいような話だが、受かってしまった学生にもそれなりの悩みがあるのだという。「内定辞退」だ。本命でないとはいえ受かった会社に断りを入れるというのは心苦しいことに違いない。ましてや先方だって学生の面接に際しては少なからず労力や経費を使っている上に将来期待している戦力に「あなたの会社には行きません」と言われる立場になってしまうわけだ。

先日のニュースで辞めようとしてもなかなか辞めさせてくれないいわゆるブラック企業に対して弁護士などに依頼して勤め先に対して「退職を伝えるビジネス」が流行っているのだという。日本の憲法では「職業選択の自由」が保障されているから「辞めたい」と言っている人を辞めさせないのは法令違反だ。それでも力ずくで辞めさせないという会社もあるのだというから酷い話である。

内定の辞退を希望する人向けに「内定辞退キット」なるものが売り出されているのだという。辞退するための手順や電話をかけるときの口上、手紙を出す場合の文例、呼び出されたときの言い訳例など微に入り細に渡って網羅されたキットなのだという。これを伝えるニュースの中でキャスターは「(内定辞退を応募した企業に)自分の言葉で伝えることが大人の階段を登る第一歩です」などと言っていたが「内定辞退キット」にある文面をなぞって書き写すことが果たして”自分の言葉で”伝えることになるのだろうかとなんともしっくりこない気持ちだ。

そもそもこれから何であれ仕事をしていくことを決めた大人の人間である。仕事はただ上司に指示された事をこなしているだけでは済まない。時には(自分に落ち度はないのに)上司や得意先に怒られて謝ったり、お願いされた事を断ったりしなければならない。というよりそれが一番難しい仕事でもある。戦国時代の戦ではただ攻めるだけではない。負け戦になった時に撤退する味方の一番後ろで追撃してくる敵を防ぐ「殿(しんがり)」がもっとも大切で難しいと言われたらしい。そりゃそうである、イケイケドンドンで攻めている時には威勢だけでもある程度はなんとかなるが、後ろから攻めてくる敵を追い払いながら撤退するのは考えただけでも胃が痛くなる。

そんな覚悟を決めたはずの学生にとってごく簡単な「断る」ことさえ人任せにしていて何ができるというのか。甘ったれもいいところである。もちろんほとんどの学生はこんなものに頼らずとも自分だけでオトシマエをつけるのだろうが、こんなものに頼らないと何もできない人間がこれからはドンドンと数を減らしていく若者の中にいるというだけで暗澹とした気持ちになるのであるよ。

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