耳鳴り症候群

もう10年近くも前のことだ。或る日突然耳鳴りが始まった。キーンという音がのべつまくなしに頭の中で鳴り始めた。以前にも風邪を引いた時などに耳鳴りがすることはあったのであまり気にしないでいた。しかし1週間経っても1ヶ月経っても1年経っても耳鳴りは治らなかった。あの日からボクの頭の中にはずっと「キーン」という音が鳴り続けている。多分医者に行ってもこの耳鳴りは治らないだろう。人間も歳をとればあちこちにだんだんと不具合が出てくる。だから「これは多分もう一生治らないんだな」と思って気にしないことにした。

病院に行けば突発性なんちゃらというようなもっともらしい診断名をつけてくれるに違いない。でもたぶん肝心の耳鳴りが治る可能性は少ない。身の回りにも以前から「耳鳴りが止まらない」という初老の上司や先輩はいくらでもいた。そしてその誰もが「どこの病院に行っても治らない!」と不平不満を垂れ流していた。おそらく耳鳴りの原因など星の数ほどもあるだろうしその原因にたどり着くのは砂浜に落としたコンタクトレンズを探すのに似ている。はっきり言って時間の無駄だと思った。

あれからずっと耳鳴りは続いている。続いているが病院に行っていたとしても状況は大して変わらなかったに違いない。病院に通っても治らなければ愚痴の一つでも言いたくなるところだが行っていないのだから治るわけがない。もし治るとしたら病院など行かなくても自然に治るのだ。だから無駄なことはしないことにした。そのうち気にしなければ別に気にならなくなったが聴力は確実に落ちたと思う。頭の中でずっと雑音がなっているのだから仕方がない。

家でテレビを見ていても「うるさい!」と言われるようになった。でもしかたないのだ、小さい音は聞こえないのだから。会話をしていたり音楽を聴いていたりテレビに集中している時には「キーン」は全く気にならないが、周りがシーンとして静かな時には特に気になる。マンガで静まり返った場面を描く時に「シーーーン」という文字で表現することがあるが、ボクはキーンを「シーーーン」だと思って聞いている。耳には何も聞こえないものすごく静かな時に聞こえる音だ。そう思えば気が狂いそうになることもない。そういう付き合い方をしている。

体が徐々にボロくなってくると自然と色々なこととうまく付き合っていけるようになるものだなぁと人間の順能力に感心している。もっとも日常生活ではほとんど苦労していないのでこんなことを言っていられるのだが、そのうちに全ての音が聞こえにくくなったら補聴器なぞつけることになるのだろうが、それまでは「シーーーン」という静かな音を楽しもうと思っている。

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