教科書が読めない子供たち(1)

ある調査によれば日本で買われた本の9割は最後まで読了されないといいます。つまりネットを含めて売れた本の9割は最後まで読まれていないということです。それどころか全体の3割近くは全くページすら開いたことがないのだというのです。確かに周りを見回しても「買ってはみたがまだ開いたことのない本」が山積みになってといういる人は多く見かけます。ボクにとって本は「読みたくなったら火がついたように読みたくなるもの」なので「とりあえず買うもの」ではありません。だから手元に届いたら貪るように読んでしまうことが多いのでそういった状況はあまり理解できません。もっとも図鑑の類は発行されてもすぐに絶版になってしまうのでこればかりは無条件に買っておきます。

「AI vs 教科書が読めない子供たち」という本が話題になっています。昨年出版された本ですが既に14刷を数えるほどのベストセラーになっています。しかしこの本を買った人の期待と本の内容には多くの部分で乖離があるような気がしています。タイトルから想像すると「AIと教科書が読めない子供はどっちが優れているのか勝負をしてみました」といったような面白おかしい話のような気がしますが、実際に読んでみるとそんなに笑えるような話では全くありません。ですが別の意味で非常に興味をそそられる内容になっています。そしてそれは本の後半になって初めて語られるのです。つまり冒頭部分しか読まなかった人はその面白さには永久に触れることができないというわけです。

冒頭から多くの部分で触れられているのは今のAI技術の可能性と現状での限界についてです。それが本の後半になって初めて人間はAIを相手に勝負できるのかという話に急展開します。今話題になっている「AIに仕事を奪われる」ことについて私たちが安心できることと危惧されることを論理的に語っています。ネタバレになるので詳しくは触れませんがこちらも非常にショッキングな話です。ところがネット上の書評を見るとその前半部分には全く触れることなく話題は終盤部分のセンセーショナルに感じる部分に集中しているのです。書評を読んで「面白そうだ」と思って本を買った人は最初から2/3ほどはおそらく文系の人にはよくわからず興味が持てないのではないかと思われる数学の一般論に終始します。

唯一モチベーションを保てるのはAI技術で東大の入試に挑戦する「東ロボくん」の話だけです。その「東ロボくん」の開発に関わる技術から一般の子供からお年寄りまでを巻き込む大規模な調査が始まるという話です。そして話の肝はここからです。筆者は生粋の数学者ですがコンピュータ(計算機)で翻訳をするためには何をどうすればいいのかを徹底的に数学の頭で考えていきます。

その結果、コンピュータは記録したものを検索したり比較することは人間よりもはるかに正確かつ高速に処理することはできるが、その”意味を理解する”ことは現段階ではできないという結論に達します。つまり歴史や言葉の情報を覚えさせる(記録する)ことはできても内容の意味を理解することはできないということです。意味を理解しているように見えてもそれは理解しているように見せているだけだというわけです。例えば国語や英語の問題の中でも「同じことを言っている文章はどれか?」という問題ではAIは正解を選ぶことが難しいということです。

音声認識や画像認識、OCRの識字率の技術は上がっても機械がその意味を理解しているわけではありません。iPhoneに搭載されているSiriという音声認識ソフトに「この近くの美味しいイタリアンレストランを教えて」と話しかけた時と「この近くの不味いイタリアンレストランを教えて」といった時にはほとんど同じ回答を出してきます。Siriは話しかけたことの意味を理解して答えているわけではなく「この近く」「イタリアン」というキーワードに当てはまるお店を検索して表示しているに過ぎないのです。もっとも不味いお店を知りたい人はごく少数でしょうから実用上はあまり問題が起きませんがそういうことです。

数学が4000年の歴史の中で得たのは統計と確率と論理だといいます。コンピュータは徹頭徹尾”計算機”ですからすべては数学、言ってしまえば足し算と掛け算の計算しかできません。つまり統計と確率と論理で解決できないことはAIでは答えを出すことができません。意味を理解することもできません。文章から式を組み立てることはある程度できますが苦手な分野です。文章と図表とグラフを見比べて”同じことを言っている”ことを判断することは非常に苦手です。

「地球表面の平均気温は温室効果ガスの濃度の上昇に比例している」という文章から右肩上がりの直線を描いたグラフを作ることはできないということです。人間なら小学生でも高学年になれば簡単にできることが最先端のAIにはできないというのです。
(明日につづく)

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