示(しめす)ヘンと衣(ころも)ヘン

かつて学校の同級生で部活も一緒だった久保木ユーコさんという女の子がいた。別に取り立てて何かがあったわけではない。隣の席に座っている女の子だった。ユーコさんは「裕子」さんと書く。学校を卒業して40年近くにもなるのにどうしてそんなことを覚えているのかというと、入学して間もない頃に同じ班の人の名前を書類に書く機会があって、その時にボクが「裕子」の名前の字を間違えずに書けたことをとりわけ凄いことのように褒めてくれたからだ。それまでは誰からも「裕子」の衣(ころも)ヘンはいつも示(しめす)ヘンと間違われていたらしい。おかげでボクはそれから”裕”という字を間違えることがなくなった。

最近では文章を書くにもパソコンを使うことが多くなって漢字は思い出すというよりも、パソコンの変換候補に出てきた字の中から”選ぶ”ことが一般的になってしまった。情けないことに小学校で習ったような簡単な字でさえ忘れている。だからというわけではなくもないのだが、その都度、辞書を引いて調べるようにしている。ここでまたもパソコンの変換機能を使うようになったらオシマイだと思って面倒臭くても辞書を引くことを心がけている。

話は変わるが先日新聞のコラムを読んでいたら氵のことを”サンズイヘン”と書いてあった。初めて聞いたのでちょっと違和感を感じた。確かにサンズイはヘンの立ち位置にある。しかし普通は単にサンズイと呼び”サンズイヘン”とは言わない。サンズイのことを知らない人に漢字の部首だということを説明するために敢えて”ヘン”を付けて言うならまだわかるが、あくまでもサンズイはサンズイでサンズイヘンではない(はずだ)。でもそんな細かいことばかり言っているとタダのしつこいヘンなおじさんになってしまうから最近は少しだけ自重するようにしている。(でも気になって広辞苑を見てみたら「さんずい」の片隅に「さんずいへん」とも書いてあった)

「瓜に爪あり爪に爪なし」とは形が似ている漢字を間違えないようにしようとよく言われる諺のようなものだが、瓜も爪もその起源をよく知らないので「そうなんだな」と思うだけで特に思い入れもない。そんな字はいくらでもあるがそれぞれに由来を聞けばきっと面白いんだろうなぁと思う。

漢字は表意文字で字そのものに意味があるという世界でも珍しい言語だ。その名の通り漢王朝で使われていたものが日本に伝わったのだろう。最近では海外から日本に来ている人もとても流暢な日本語を話すが、中国人以外は漢字が苦手だという人が多い。ひらがな、カタカナは書けても「漢字はダメ」という人はたくさんいる。そのせいかヘンな漢字を大書きしたTシャツを着たガイジンをよく見かける。

でも考えてみれば今の日本人も「読めるけど書けない」人や「読むことすらできない」人はたくさんいるわけで、取り立ててガイジンに限ったことではなくなってきている。でもせっかく日本に生まれて日本語を母国語としているのだから世界でも珍しい漢字というものを少しは大切にしていきたいものだなぁと思う。

あの時の「裕子」さんが今どこで何をしているのか知る由もないが、「裕」が衣ヘンだということだけは忘れないでいる。でも「祐」はシメスヘンだから時々間違えそうになるんだよなぁ。

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください