グルジアとジョージア

「ジョージア」、缶コーヒーの名前ではない。以前は「グルジア」と呼ばれていた国の新しい名前だ。いやそういうと語弊がある。日本での新しい呼び名というのが正しいのだろう。国の名前が変わったわけではない。先方の国から日本政府に対して「ジョージアと呼んで欲しい」と言われてそれに応えたというわけだ。アメリカにも同名の州があるのでおわかりだと思うがジョージアは英語読みである。一方のグルジアはロシア語読みである。

旧ソ連からの独立国で民族的に反露感情が強かったこともあり、以前から日本政府に対しても「ロシア語読みは嫌だからジョージアと呼んで」というお願いがあったのだという。大相撲の力士である関脇・栃ノ心はグルジアもといジョージアの出身だ。

”エクソニム”という言葉をご存じだろうか。国名などの現地読みではない呼び方を指す。例えばイギリスやオランダ、ポルトガルなどは日本だけの呼び方だ。だからイングランドに行って「I want to eat Igirisu foods.」と言っても通じない。これは日本人が母国をニッポンまたは二ホンと呼んでいるのに対して外国人にはJapanというのに似ている。日本でもスペイン人にいきなり「ハポン」と言われても面食らうのではないだろうか。国際会議や国連などでは自らを”Japan”と名乗っているが日本に帰ってくれば「ニッポンはいいなぁ」などと言うのである。

日本人の多くは外国語といえば英語だと思っている人が多く、中には英語が話せれば世界中の人と話せると思っている人すらいるのではないかと思うほど英語が信奉されている。だからフランス語やドイツ語、オランダ語などの明治維新以来、軍隊などを通じて日本と馴染みの深かった言葉を別にすればイタリア語やスペイン語で書かれている固有名詞を英語読みする人も多い。そしてそれが唯一正しい読み方だと信じているフシがあるのだ。

話は変わるがシナ(支那)は元々英語のCHAINAを日本語読みにしたものだ。日中戦争、太平洋戦争で中国との関係が悪くなり中国で反日感情が強くなったこともあって、戦後になって「中国人が嫌がっていた”シナ”という呼び方はやめよう」ということになった。チャイナはいいのにシナは嫌だというのも不思議な感じがするが、相手が嫌がっていることをわざわざすることもない。中国という呼び名があるのだからそれを使えばいいだけのことだ。

ただ中国人は母国のことを”チュウゴク”とは呼ばない。”中国”という漢字の中国読みである。この辺は日中国交正常化の時の取り決めが未だに生きていて、中国人も日本人も漢字は自国語の読みでいいことにしている。しかし考えてみれば同じような漢字を使っている民族なのに、筆談ではある程度通じても会話では固有名詞すら通じないというのはまことに困ったものだ。日本国もグローバルを標榜するなら、せめて中国の都市名や人名は中国読みをするように推奨して欲しいものである。

最近では学問の世界でも英語読みがはびこり始めている。生物には”学名”という万国共通の名前が付けられている。それぞれの国ごとに「ティラノサウルス」や「アゲハチョウ」、「キャベツ」などの名前はあっても言葉が違えば同じものの名前でも変わってしまい、同じものかどうかが分からなくなってしまう。そのために世界で通用する一意の名前が付けられているのだ。例えば日本でいういわゆる”ティラノサウルス”はティラノサウルス・レックスといい学名ではTyrannosaurus rexと書く。ティラノサウルスは学名の中では属名と呼ばれてティラノサウルス属というグループの分類名だ。そしてrexは小種名と呼ばれティラノサウルスの仲間の中の特定の一種類を指すようになっている。

この学名は主にラテン語やギリシャ語などから付けられることが多く、以前はラテン語読み(ローマ字読みに近い)が使われることが多かったのだが、最近では国際的な学会では英語読みが使われることが多くなっている。すると今まで使っていた呼び名と全く違う呼び名が使われることになってしまい「すわ、新種か!」などと勘違いしてしまうこともあるのだ。

このあたりはそれぞれの学会によって慣習が違うのだろうが、せめてボクにも関わりのある魚類学会では昔ながらのラテン語読みを続けて欲しいなぁと日本の片隅から願っているのである。

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