あたしのやり方でやってみな!

すべての人はあらゆることを実践する際にそれぞれに自分に適したやり方とコツを持っている。誰かが示した平均的なやり方が正しいとは限らない。そして恐らく実際に平均的なやり方をしている人はいない。それぞれが自分に合った方法を自分なりに見つけ出しているのだ。

生産管理では効率的で最適化された作業工程を設計するために、いくつかの動作が組み合わされた一連の作業を動画で撮影してからそれぞれの動作に分解し、効率的な動作や器具の配置などの最適解を求める方法がとられたりする。手や足を動かす動作の大きさやスピード、角度や回数などをストップウォッチなどを使って計測して効率的な手順や作業方法などを検討して改善していく方法である。ということが生産管理の教科書に書かれているが実際の現場でそのようなことが行われている場面をほとんど見たことがない。

もっともボクがいわゆる単純繰り返し作業の現場に携わったのは30年以上も前の電線工場の生産ラインで半年ほど研修として働いた時だけなので今はどのような方法で改善がなされているのかは正直なところ分からない。それにそのような作業分析を行うのは生産ラインの設計段階でのことなので実際の現場が稼働し始めてから行われることは少ないのだろう。事実、実際に生産ラインが動き始めてしまえば現場でそのようなことをする時間的な余裕はない。

製造現場での効率性はラインであれ単独作業であれ、スピード、正確性、丁寧さなど求める目的によってアプローチは変わる。雑に作業しても早ければいいのか、多少は間違っていても早ければいいのか、正確で丁寧なら遅くてもいいのか…。早くて丁寧で綺麗で正確ならば言うことはないが、大抵の場合は早さと丁寧さはトレードオフの関係にある。あちらを立てればこちらが立たないことが多い。そこでできるだけ両方の条件において妥協できる点を探して現実的な解決を図ろうとする。そしてどこで妥協するかも大きな問題だ。

しかし実際の現場に入って一個人として作業してみると、自分の受け持っている作業を素早く正確にかつ丁寧にこなすにはあるコツがあることに気づく。それはどんなに単純な作業でも同じだ。例えばラインを流れてくる部品をビニール袋に入れてセロテープで封をするような作業があったとする。作業マニュアルには作業前の状態と完了後の状態が詳しく記述されており注意すべき点ややってはいけないことが書かれているがどうやって作業するかには言及されていないことが多い。そりゃそうだ、袋に入れて封をするだけだ。留めるテープの長さや角度、入れる向きは決められているかもしれないが「右手の5本の指でで掴んでから左手の3本の指で袋の口を3センチの幅に広げて、右手に持ったパーツを素早く丁寧に袋の中に入れたあと両手で袋を持って袋の口を3センチ折り曲げて5センチの長さに切ったセロテープで折り曲げた口を留める」などとは書かない。仮にそんなマニュアルを作ったとしても誰も真剣にマニュアルを守ろうとはしない。単純作業なら最終的な結果が良ければどうやろうが自分の勝手だからだ。

だって左利きの人はどうしたらいいのか、乾燥肌で指先がカサカサで静電気でくっついてしまっている薄いビニール袋の口を3本指では開けない人はどうすればいいのか、逆に手汗がベタベタで3本指で袋を触ると袋が指に張り付いてうまくつかめない人はどうすればいいのか、2本指ではダメなのか、などそれぞれの極めて個人的な事情によっても最適なやり方は変わってくる。それを1,000人のやり方を調査して平均値をとって「一番効率的な方法はこのやり方です」と決めることには何の意味もない。おそらくそこで示された”平均的な方法”で作業している人は一人もいない。それぞれの人が自分が一番上手くできる方法を探して見つけ出しながら作業をしているはずだ。

そのために多くの人の作業を見てそれぞれの人がやっているたくさんのやり方を見ながら自分で試してみることが自分なりのコツをつかむ早道だ。マニュアルを見てそれに合わせて、効率が悪いとうすうす感づいていながらバカ正直にそれを守っていては自分なりの効率的な方法など見つからない。

そして自分が「最適だ!」と思う方法を見つけたとしても、それを他の人に自慢げに話すことに何の意味もない。それぞれの人にはそれぞれの事情で最適なやり方があるのだ。自分に最適なやり方が必ずしも他人にとって最適な方法ではないことはよくあることだ。

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