何となく合わせていくこと

車のタイヤ交換を自分でやったことのある人はどれくらいいるのだろうか。教習所では1度くらいは実習をやらされるので運転免許を持っている人で全く知らないという人は少ないと思う。タイヤを外すときには何も考えずにホイールナットを緩めていけば簡単に外れるので問題はない。もっともホイールの下側のボルトを緩めるのを最後にしないと緩めるたびに傾いてくるタイヤにナットが当たって緩み辛いものではある。しかし新しいタイヤを取り付けるときには4~5個のナットすべてを軽く締めておいてから最後に全体を均等に締めていくというのが常道だ。

なぜそんなことをするのかといえば、タイヤを取り付けるために車側に付いているボルトとホイールの取付穴には若干の遊びがあって嵌め込んでみるとガタガタと隙間がある。これを精密にピッチリと作ってしまうと温度変化による金属の膨張や収縮、ホイールの歪みなどによって取り付けが困難になってしまうためだ。ガタがあるということは締め付け方によってはタイヤが偏って車に取り付けられてしまう。すると走行中の振動でホイールが動いた時にナットが緩んで、最悪の場合にはタイヤが外れてしまうことになる。それはもう大事故につながりかねない惨事だ。だからタイヤを取り付けるときには少しずつ順番に締めてやって最後にすべてをきっちりと締める必要があるのだ。

車以外でも日曜大工で棚や椅子を作ったことのある人もいるだろう。組み立て家具を買ってきて自宅で組み立てた経験のある人もいるだろう。設計図通りに板や角材を切ってネジ穴を開けてもやはり多少の誤差は出る。4か所のネジ穴にビスを差して固定しようとするときに最初のネジ穴のビスを最後まで締めてしまうと2番目のビス穴が合わなくなってビスを差しこむことさえできなくなることは普通に経験することだ。取扱説明書には書いてないがこんな時はまず4か所のネジ穴にビスを差してしまう。反対側のナットを軽く締めたらやはり全体を均等に締めていくと歪みが全体に分散されてうまく組み立てることができる。こんな時、几帳面な人は最初から1か所ずつキチンと締め上げてしまいがちだがそうするとうまく出来上がらないこともある。己の美学を捨てて何となく全体をだらしなくユルユルと締めていった方がいいこともあるのだ。

人と人との組み合わせもこれに似ている。ルールーや常識でぎちぎちに縛ることは時として人間関係をギスギスさせる。人の心は精密機械ではないのでそれぞれのネジ穴が寸分の狂いもなくキッチリと組みあうことなどまずない。多少のズレや歪みを許容しないとうまく組み合わさらないどころか人の心同士が歪んで壊れてしまうことがある。まったくネジ穴がかみ合わないのであれば諦めもつくが微妙なズレは大目に見てまずはネジを軽く差し込んでみることから始めてはどうだろうか。まずは全体に形が見えるようにグズグズと組み上げてみる。そのあとで差し込んだネジをあちらこちらで擦り合わせながら締めていくわけだ。その過程ではお互いに心を擦り合わせることや心ならずも形を歪めてみたりする必要が出てくるかもしれない。しかしそれはお互い様だ。形を作って完成させることが目的なら、まったく組み上げることができないよりもそれぞれの心が少しずつ譲り合って一つになることも必要だと思う。

もちろん人と人との関係では全く組み合わない部品同士が隣り合ってしまうことだってある。それぞれのネジ穴がまったく組み合わさらないこともある。そんな時に無理やりドリルで新しい穴を開けたり穴のないところに釘を打ったりするのはあまり褒められたやり方ではない。もしかしたら組み合わせる向きや場所が間違っているだけかもしれない。ちょっと見方を変えるだけで形を変えて組み合わせることができるかもしれない。

中にはまったく組み合わさらないパーツ同士だってある。それを無理やり組み立てることはアーティストにとっては大きな刺激となって違う方向性を見つけ出すきっかけになるかもしれないが一般的な人間関係の中ではギスギスした対立ばかりを起こすことになる。その時も直接に部品同士を接合するのではなく別の部品を間に挟むことで無理のない関係を作り上げることができるかもしれない。

ボルトやナットにはそれぞれに適合したネジ山がある。綺麗に嵌ればスムースにネジを締めることができるが、最初に傾いてねじ込もうとするとうまく動かなくなることがある。そんな時は誰でも一度ネジを外してからゆっくりと手ごたえを確かめながら真っすぐに嵌まるようにやり直すだろう。人と人の関係もそれに似ているような気がする。

ガソリンスタンドや自動車整備工場で、最初から圧搾空気のインパクトレンチを使ってガンガンとボルトを締めていく人を時折見かけるが、ボクはそんなデリカシーのない人とは友達になれそうもない。

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