なかなか抜けない困った習慣

しばらく前の事、18で免許を取って以来、国産の中古車を乗り継いできたボクがイギリスのローバーの新車を買ったのはただの気の迷いだったかもしれない。もっともイギリス車とはいうもののエンジンは日本のホンダと共同開発したという半分は国産のような外車だ。しかしそこは「腐ってもイギリス車」。ウインカーや補助灯の電球が切れて交換するのにマニュアルを見ても、あるはずの交換穴がなく室内の内張を全部剥がさなければならなかったり、マフラーが腐って穴が開いたので交換しようと思ったら国産では2~3万円の部品が35万円もしたりと面食らったものだ。それよりも困ったのが各種のスイッチである。

ご存知のようにイギリスでは自動車は日本と同じ左側通行だ。だから運転席も日本車と同じく右側にある。ところがどういう訳かウインカーやワイパーのスイッチは日本車とは反対なのだ。車を運転する人ならお分かりと思うが、交差点などを右折、左折するときには「曲がりますよ」という意味でウインカーを出さなければならない。日本車なら通常はハンドルの右側に付いているウインカーのレバーを上や下に動かすのだが、ローバーではこのレバーがハンドルの左側に付いている。しかもハンドルの右側にはワイパーを動かすレバーが同じように付いているのだ。だから国産車からローバーに乗り換えた当初は交差点を曲がるたびに雨でもないのにワイパーを動かしてしまっていた。

普段の習慣を変えるのはかなり大変なことである。運転中に意識して「はい右折」「ハンドルの左のレバーを上に動かす」「ハンドルを切る」と確認しながら行動するのならいいのだが、交差点を曲がる動作などはいちいち考えながら確認してやっているわけではない。習慣で無意識に体が動いてしまう。すると今までやっていた慣れた動作が自然に出てしまうわけだ。もっともそんな動作の一つ一つを考えながら生活していては身がもたない。生活の中の多くのことは無意識にやっている。ご飯を食べることや歯を磨くことも毎回考えてやっているわけではない。長い間の慣れが習慣になって他のことを考えていても自然に体が動く。

しかし、しばらくのローバー生活から再び国産中古車に乗り換えた時は、今度は逆の現象に悩まされた。交差点でハンドルの左側にあるワイパーのレバーを動かしてしまう。数年間のローバー暮らしが習慣になって体に染みついてしまった。慣れない外車に乗って交差点でワイパーを動かしてしまう人は多いと聞くが、国産車で交差点をワイパーを動かして走っている人はあまり見ない(ような気がする)。しかし実際に環境をコロコロと(といっても数年単位の話だが)変えると習慣も勘違いする。

ボクは今までに10回くらい引っ越しをした。引っ越して数日間は新しい家から出勤したり職場から帰宅する際にいつもと違う違和感を感じていた。ボーッと歩いていると前の家に向かう方向の電車に乗ろうとしてしまうこともあった。だから最初の1週間くらいはやや緊張して通勤したものだった。ところが不思議なことに1か月も経つとその家にもう何10年も住んでいるかのような感覚になってくる。そんな自分の状況を見ていると、意外と習慣を変えるのは簡単なのかもしれないと思うのだ。

そうやって何度も習慣を変えていると時としてすべてが分からなくなる時がある。あれ?今乗っている車は何だっけ?今使っているパソコンはMacだっけ?などと目の前に見えているものでもちゃんと確認しなくては気が済まなくなることがある。もしかしてそれが習慣になってしまったのだろうか?それはそれで面倒くさいことだ。習慣として無意識に行動できていたことにも神経を使いながら暮らさなければいけないのだから。

最近は車を運転することもめっきり少なくなった。休みの日のちょっとした買い物くらいにしか車に乗らないと、かつての数々の国産中古車やローバーでの習慣が入り乱れて何が何だかわからなくなる時がある。そんな時は一度止まって意識して考えて行動するようにしている。かつて変え続けてきた習慣と今の習慣の重みが、まだ同じくらいなのかもしれない。

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