大坂なおみ

「ネオーミ、オサカー!」のコールと共にコートに姿を現すプロテニスプレイヤーの大坂なおみ選手。昨年秋の全米オープン選手権ではシングルスでは日本人初となるグランドスラム大会(4大大会)優勝を飾り、今年の全豪オープンでも優勝してしまった。去年の前半まではどこのトーナメントでも今ひとつの成績だったことを考えると驚異的な進歩と活躍だ。心からおめでとうと言いたい。

マスコミでは「日本勢初の…」をしきりに強調して報道されている。確かに以前から伊達公子選手、松岡修造選手、杉山愛選手、錦織圭選手と世界の舞台で活躍してきた日本人選手はいた。グランドスラムではダブルスでは優勝を経験している選手もいるがシングルスではいなかった。もっともグローバル化が進んでいる現代において”日本人”ということをそこまで強調する意味は何なのだろうと思うが、テニスの世界では東洋系にルーツを持っている選手でも優勝経験を持っているのは男女を含めて現在、錦織圭選手をコーチをしているマイケル・チャン以外にいないことを考えれば強調したくもなるというものだろう。どういう訳か東洋系の選手でテニスの絶対王者は少ない。日本人でいえば車いすテニスの国枝慎吾選手くらいしかいないだろう。

大坂選手の武器は長身から放たれる強烈なサーブやストロークに加えてフットワークの良さによるコートカバーリング、ファーストサーブでさえもエンドライン付近で構えるレシーブのポジションと角度のあるパッシングショットなど枚挙にいとまがない。特にレシーブを前で受けられるとサーバーから見れば狙えるコースが狭まるためにプレッシャーを感じるはずだ。またネットにより近い位置から打ち返すことで相手にはあっという間にリターンが返ってくることになるため油断がならない。しかし昨年の前半まではそんな彼女もその良さを十分に生かすことができずに凡ミス(unforced error)で試合を落としてしまうことが多かった。

それがどういうトレーニングを行ったのかは知らないが、メンタル面での集中力が以前とは比べ物にならないほど高まったように感じる。テニスの試合には何時間もかかるので、その間ずっと集中力を維持しておくことはできない。せいぜい1回に20分程度だ。だから試合中にもプレーに波ができる。集中が切れたと思われるときにはミスも増える。そこら辺のメンタルコントロールをどう変えてきたのかはわからないが、昨年後半からの大坂選手は明らかに変わった。今年もツアーは始まったばかりだが、どうかケガだけはしないように注意して頑張って欲しい。

大坂選手は日本人の母とハイチ系アメリカ人の父を持ちアメリカに住んでいる。今はまだ日本とアメリカの二つの国籍を持っているので選手としてはアメリカから出場することも日本から出場することもできる。今は日本から出場しているので試合では”日本人”という扱いになっているが人種としてはハーフだ。そこで例えばの話、彼女が”アメリカ人”として出場していたとしたら日本人はここまで熱狂しただろうか。アメリカ人女子テニスプレイヤーには絶対王者のビーナス・ウイリアムスやセリーナ・ウイリアムスがいる。アメリカ人から見ても「また新しい選手が出てきたな」と思うだけかもしれないが、日本人から見たら”ただのアメリカ選手”にしか過ぎない。”日系”とはいえアメリカ人なのだ。

フィギアスケートの世界で見てみるとアメリカから出場している長洲未来(ながすみらい)選手の両親はともに日本出身だがアメリカに住んでいることもあってアメリカから出場している。浅田真央選手や安藤美姫選手らとともに世界大会にも数多く出場して優秀な成績を残しているが、マスコミ関係での扱いは日本選手と比べると著しく小さい。フィギアスケートのペアでは日本出身の川口悠子選手がロシアから出場してこれまた優秀な成績を収めていたが日本のマスコミに注目されることは少なく日本での知名度も高くない。古くは伊藤みどり選手が銀メダルを取った1992年のアルベールビルオリンピックの優勝者は日系三世のクリスティー・ヤマグチ選手である。当時のマスコミは「日本人の伊藤みどり」の敵として冷たい報道がされていたことを覚えている。

こうして見ていると、日本のマスコミにとっては”素晴らしいアスリート”ではなく”日本人”であることこそが最も大切なことであり、多くの視聴者にとっても”日本人”として出場しているから応援する≒視聴率が取れるという構図しか見えてこないのだ。その証拠にNHKは大坂選手の全豪オープンの決勝戦はゴールデンタイムにサブチャンネルを使ってまで無理やり実況放送したのに、男子決勝のジョコビッチ(セルビア)対ナダル(スペイン)は世界王者同士の一戦なのに深夜の録画放送しかしなかったのだ。普通の日本人も日本のマスコミも、どんなスポーツでもいいから日本人だけが大切なのだろうと思う。

何だかせっかくグローバル化だなどと言っているのにいつまで経っても”JAPAN FIRST”の精神しか持てないのはちょっと残念なような気がする。しかしいずれにしても彼ら彼女らが素晴らしい一流のアスリートであることに変わりはない。

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