半分やらない

以前の職場で、ある時期「監査室」という部署にいたことがある。監査というのは「決められたルールを守っているかどうか」をチェックする部門だ。守っていれば良しとするが間違ったことをしていれば摘発して懲罰を与える。監査室の仕事とは、細かいことを突っつきまわしてはホジクリ返して吊るし上げては 不届者の不正を経営者にチクるという嫌な仕事で、いわば社内の嫌われ者だ。しかしボクだって好きで監査室に行ったわけではない。業務命令で嫌々ながら配属されたのだ。人の弱みにつけこんでいじめるような真似が、誓って言うが決して好きなわけではない。それは信じて欲しいものである。ただ正義は貫かなければならない。

「決められたルール」とは時には国の定めた法律だったり、経理部門の決めた運用ルールだったり、総務部門が守らせたがっている社内規則だったり、情報セキュリティ部門の情報機器の取扱い規定だったり、身の回りの整理整頓だったりする。あらゆる決まりについてちゃんと守られているかを現場に出向いて調べるわけだが、調べるところは社内に限らず下請けの取引先だったり他の事業部の地方にある工場だったりするので全部を簡単に調べるというわけにはいかない。部署や会社によっては1か月に1度ということもあるが3年に1度などというところもある。工場などは普段から動き続けているためノーアポで抜き打ち検査というわけにはいかない。しかし事前に通告すると都合の悪いところを隠してちゃんとやっているところだけを見せようとする。準備書類にしても妙にちゃんと揃っていたりすると逆に怪しく感じてしまう。因果な商売だ。

そんな経験からいえば、どんなにルールを決めて周知させて厳しく「やりなさい」と指導してもほとんどの人は何もやらない。毎日使っているパソコンを立ち上げた時に自動的に現れる画面上の「ボタンをクリックしてください」と言っても半分以上の人はやらない。「やろうと思ってた」という人すらあまりいない。「パソコンは帰るときも電源を切らないから毎日立ち上げるわけではありません」などと口ごたえする人もいる。「それはセキュリティ上ダメだということになってるでしょ」と言っても「そんなこと言ったってショーがないじゃん」などと口ごたえする。幼稚園の子供なみだ。全くやる気のない奴らがそんな人たちの半数を占める。有名大学院の修士課程を出ていたって社会人として基本的な業務命令すらできないのだ。

ところが「やらなかった人は事業部長に個人名を告発するので、懲戒処分になる可能性があります」などと脅しておけば翌日までに全員が処理する。自分が明らかに損したり得することが分かっているときだけは真っ先にやろうとするのだ。人が「ちゃんとやろう」と思うときにはそれをやることで自分が得するか、やらないことで損をするような場面だけである。現生利益は大切だ。つまりお上からのお咎めがなければ「面倒くさい」と言ってやらない。マウスで1回クリックすることのどこが面倒くさいのか全く理解できない。

社内ルールならその程度で済むが国の法令違反となるとそんなにヤワなことでは許してもらえない。特に国の機関の査察となればほぼ抜き打ちで、あらゆる資料の提出を求められ、違反が見つかれば罰金どころか最悪の場合には世間に名前を公表されて業務停止命令を食らうこともある。しかしそれでもやらない人間はいる。そのために毎年何人かが懲戒解雇処分になっていた。懲戒解雇になれば退職金だってパーになってしまうのにだ。

人を思い通りに動かすには何よりも現生利益が大切だと思っている。罰則のないルールなど無意味だと思っている。しかし罰則があってもやらないのだから「バカにつける薬はない」とはまさにこのことである。

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