救助のトリアージ

先日、23年前に起きた「阪神淡路大震災」についてのTVの関連番組で、災害時における救急隊の「救助のトリアージ」について特集していた。昨年も全国で自然災害が頻発し、消防隊や自衛隊のおかげで多くの命が救われた一方、不幸にも失われた命も多い。特に地元の消防隊や消防団の方々は自らも被災者であることが多いにも関わらず、地域住民のために我が身を顧みず懸命に人命救助などの活動をする姿には心を動かさずにはいられない。

ひとたび大災害が起こると救急隊員も消防隊員も圧倒的に不足する。それもそのはず、普段とは比べ物にならない数の救急要請が一時に集中すれば要員が足りなくなるのは当たり前だ。災害救助でなく、我々が普段やっている日常業務でも処理しなければならないことが集中すれば全てを同時にやることはできない。そんな時には優先順位をつけて処理するのが一般的だ。

優先順位は必ずしも重要なことが一番優先されるわけではない。重要度は2番目でも緊急度が高かったり処理するための時間が短時間で終わることがわかっていればそれを先にやってしまうこともある。短時間の間にどれだけ効率的に処理できるかによって優先順位が決められることもある。

大きな災害が起きた時には助けを求めているたくさんの人を全員同時に救助することなどとてもできない。当然ここでも救助のための”優先順位”をつけようという話が出たとしても当然だろう。事実、緊急医療の現場では現場の医師の判断で重傷度や生命のリスク度合いによって「トリアージ」という治療の優先度合いを決める手順が実施されることもある。手の指を擦りむいた人よりも瀕死の重傷を負っている人が優先されるのは心情的にも納得できる。

しかしまだ医師が治療する段階にすらなっていない災害現場では”誰を”最優先して救助すべきかを判断するのは、現場の消防隊員などの判断におもねるしかない。そんな現場で瓦礫の下敷きになって苦しんでいる人がいるとしよう。重機も入れない現場でけが人を助け出すには1時間以上かかりそうだと判断した時、隣町の小学校で児童17人が教室に閉じ込められているという連絡があった。幸い児童は崩れた校舎の下敷きになってはいないものの瓦礫に阻まれて外に出ることができない。児童に大きな怪我はないが建物の天井はいつ崩れるかわからない。しかし助けに行かれるのはここにいる3人の隊員だけだ。そんな時にどんな判断を下すのかという問題なのである。

目の前には額から血を流して下半身をコンクリートの瓦礫に挟まれて苦しんでいる瀕死の人がいる。その人を、言葉は悪いが「見捨てて」別の現場に向かうことができるのか。時間はない。目の前にいる瀕死のけが人や家族に向かって「悪いけれど他の現場に行かなければなりません」と一担当の救助隊員が言えるのか。実際に神戸の地震の現場では隊員が家族から「人殺し!」と罵られたこともあるという。目の前の一人の命を救うためにもっと多くの助かる可能性の高い命を見捨てられるのか。多くの命を助けるためなら目の前の一人は諦めるのか。現場ではそんな究極の判断を求められ続けたという。

生存できる確率の高い人を優先して救助することも必要だと考えるのは、平時の落ち着いた会議室の中であるからで、そこでは冷静に「仕方ないよね」と言えることであっても、災害で大混乱して誰もが生死をさまよっている場所で目の前で「助けてくれ」と叫んでいる人と居合わせた時、どんな判断を下せばいいというのだろう。

逆に、いざ自分が瓦礫の下敷きになって「もう死ぬかもしれない」という立場になった時に「あなたは助かる見込みが少ないから他の人を助けます」と言われたらどう思うのだろう。「そうだね、俺はもうダメだから他の人を助けてやってくれ」と言えるのだろうか。やっぱり「助けてくれ!見放さないでくれ!」と泣いて懇願するのだろうか。

普段、道を歩いているとき救急車がサイレンを鳴らしてやってきているのに道を譲らない人は多い。しかし、いざ自分が救急車に乗る側になった時には救急車の中で”道を譲らない人”に苛立つのだという。何とも勝手な話だ。しかし実際に、ボクも何度か友人の付き添いで救急車に同乗したことがある。そのとき驚くほど人は救急車に無関心だ。誰一人として道を譲ろうとする人などいないのをこの目で見たときには驚きを隠せなかった。「あなたの前にいるサイレンを鳴らした救急車には緊急搬送される自分の家族が乗っていると思いなさい」とテレビでは言っていたが、誰もがその場に立たされないと自分の身に置き換えて考えることができない。だから災害が起きる前に避難勧告が出ても誰も避難しようとはしない。

それでいいのか!自分さえよければいいのか!それでもお前は日本人なのか!
今の日本人は「COOL JAPAN」などと言われていい気になっているが、自分の足元をじっくりと見ることすら忘れてしまっている。

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