あゝ勘違い

生まれてこの方、自分では常識だと思っていたことがふとしたきっかけで意外にも全くの勘違いだと知ることがある。東京の羽田空港があるところは「大田区」である。「太田区」ではない。しかし人の苗字では太田さんのほうが圧倒的に多い。ではなぜ東京都大田区なのか。ボクが以前に職場の長老に聞いた話では、かつて大田区は「大森区」と「蒲田区」の2つに分かれていた。それが合併することになった時に双方から一文字ずつを取って「大田区」としたのだという。人から聞いた話なので真偽の程はわからない。

女の人には考えられないことかもしれないが、いい中年のオヤジでもへその緒は「母親のへそと胎児のへそを繋いでいた」ものだと勘違いしている人がいたと何かのエッセイで読んだことがある。だから仮に亡くなった女性を解剖すれば母親のへその裏側には干からびたへその緒が垂れ下がっていて、それを数えればその人が一生の間に生んだ子供の数などたちどころにわかるものだと勘違いしていたというのだ。実はボクも小学生の頃にはそんなふうに思っていたような気がする。幸いその後、赤っ恥をかく前に事実を知ることができただけだ。

先日ある人と話をしていてどうも内容が噛み合わないのが気になった。北極と南極、つまりN極とS極で地球の引力は違うのかというのだ。ご存知の通り”引力”とは万有引力のことを指している。17世紀の物理学者、かのアイザック・ニュートンによれば「質量のあるものはあまねくその物質同士の間に引き合う力が存在する」というものだ。その理由は未だにわかっていないが、地球上にある質量のあるすべてのものは地球に引きつけられている(正確には地球と引っ張り合っている)。

※アインシュタインの一般相対論によれば質量による「空間のひずみ」によって引きつけられているように見えるというのが定説で、それによれば空間のひずみによって質量のない光さえも太陽の付近を通る時には太陽の重力で地球から見ると曲げられている。これは実際の観測で確かめられているが、ここではニュートンの古典力学に絞って話を進めることにする。

一方で地球にはN極とS極がある。北極がS極で南極がN極だ。磁石のN極は今のところ概ね北を指す。概ねというのは地球の磁極はゆっくりと動いているからだ。最近話題になっている「チバニアン」の時期には地磁気が反転するというスペクタクルも起こったという。地磁気は地球内部のマントルの対流によって発生しているという説が有力だがこちらも詳しいことはわかっていない。
しかしわかっていることが一つある。万有引力と地磁気は全く別のものだということだ。

磁石は鉄(Fe)やニッケル(Ni)、コバルト(Co)を強く引きつけることが知られている。誰もが子供の頃に試してみたように磁石にはくっつくものとくっつかないものがある。どうしてそのような違いがあるのかは量子物理学で解明されているがかなり専門的なので割愛する。いわゆる「磁力」と呼ばれるものだ。地球の磁場(磁力)は地球の周りに発生した「磁力線」によって発生している。しかし「引力」は物質のいかんにかかわらず質量のあるものをすべて引きつける。仮に地球に磁場がなくなっても引力は変わらずに存在するということだ。

先の人の話をよくよく話をつなぎ合わせてみると、その人は地球の引力と地球の磁場を混同していた。子供の頃に「引っ張り合う」ということだけに着目して引力と磁力がごちゃまぜになった。それが数十年の間修正されることなく今に至っていたらしい。

ちょっと考えればすぐに分かることだがそんな笑ってしまうような勘違いは誰にでもある。とりわけ年齢を重ねれば重ねるほど頭は固くなり間違いを指摘してくれる人もいなくなり、勘違いはいつまで経っても修正されない。「常識」という名の魔物に取り憑かれて勘違いを修正する機会があっても修正できないでいる。それは頑固だとか意地を張るということとは違う。人は一度思い込んだものを修正することは難しいという話だ。

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