恋とマーケティング

「好き、嫌い、好き、嫌い、好き、…」

女の子なら子供の頃に花占いをした経験のある人もいるだろう。男が花占いなぞしたらただのお笑いネタにしかならないが女の子が自分の恋の運命を花弁の数で占おうとするなんていうのはまさに少女漫画「別冊マーガレット」の世界だ。

近年は人間の脳の研究も進んでいてどんな事を考えている時にどんな脳波が出るのかも解ってきているという。いやそれは言いすぎだ。考えている内容ではなく寒さや暑さ、触覚のような感覚だったり友人関係に悩んでいるような社会的な活動を脳がしている時に、脳のどこの部分からどんな脳波が出てどんな物質が作用しているのかが徐々に解りつつあるという。もっとも人間の脳は複雑でその中にある神経細胞も膨大だ。だから解りつつあるとはいうものの実際にはそのごくほんの一部が解るようになってきたに過ぎない。

例えば、相手がどんな状況でどんな脳波が出ている時にどんな人が好きになるのかをが分かれば恋が成就する確率は高くなる。好きなものを見たときとそうでもないものを見たときの脳波の違いがわかるようになっただけでも素晴らしい成果だ。時間はかかるが一人の人にいろいろなものを見せてそれがどの程度好きなのかをみればだんだんとその人の好みが解ってくるに違いない。それは食べ物であったりスポーツであったり宗教であったり考え方であったり何でも構わない。

かつて「ウソ発見器」というのが話題になったことがある。正式名称を「ポリグラフ」といって呼吸数や脈拍、血圧などの生理現象を測って、その数値に急激な変化があったらウソをついている可能性が高いというものだった。それは実際に警察の捜査などでも使われていたという。これは脳波の変化の一段階あと、脳波の変化によって起きた体の変化を調べるものだから精度は曖昧で脳波の何が変わったのかは全くわからないが間接的に脳波の変化を見ていたようなものだ。

女優の有村架純がいいという人もいれば広瀬すずが好みだと思う人もいる。常盤貴子がいいと感じる人がいれば片桐はいりが最高だと言い切る人もいる。人の好みは不思議だ。きれいな女優さんをみれば誰でも好感を持つのかといえば以外にそうでもない。昔、学校のクラスでも何組かのカップルがいた。あんなに可愛い子に何であんなダメ男がということもあったし、クラス一のイケメンが図書委員の地味な女の子と付き合っていたりした。子供の頃の好き嫌いなんてほとんどがパット見で決まっており外見がすべてだった。一度も話をしたこともない女の子を好きになるなんてそれ以外に理由がない。それでも仲のいい男同士が(恐らく)胸襟を開いて好きな女の子の話をすると不思議な事に相手がダブってしまうことがほとんどなかった。ほんの数十人の男の子と女の子のグループの中での話だ。

男も女も成長すれば外見だけではなく性格やその行動、考え方によって好き嫌いはまた分かれてくるから見た目の好みの何十倍も何百倍も何千倍も複雑になってくる。それには子供の頃から持っていた直感的な好き嫌いに加えてそれまでに生きてきた中での経験も加味されるだろう。

そんな時に”好きになる”とはどこで起きるどんな感情なのだろう。マーケティングは相手に、平たくいえばお客様に「好きになってもらう」ことが目的だ。好きになってもらえば近くに来てくれる。話しかけてくれる。手にとってくれる。セールスはお客に売りに行くことだがマーケティングはお客に来てもらうことである。うなぎ屋の前で鰻を焼く匂いを嗅げば多くの人が「うなぎ食べたいなぁ」と思う。お腹が空いている人ならその誘惑でフラフラとお店に入ってしまうかも知れない。そのためにうなぎ屋は焼いている煙をわざと店の前に流す。わざわざお金をかけて宣伝しなくてもお腹をすかせたうなぎが食べたいお客が向こうからやってくるのだ。「鰻は煙で食わせる」と言われるゆえんだ。

相手の考えていることを推測することは難しい。脳波を調べたからといってわかるものではない。ましてや行動や言動から想像することなど至難の業だ。しかしその人になりきってどうして好きだと思うのかの”理由”を丹念に聞き出すことができればその魅力の一端を窺い知ることができるかも知れない。ただ通り一遍に尋ねたところでそれはわからないだろう。相手と自分の好みは必ず違っているのだから。「相手の気持になって」とはよく言われることだ。しかし相手の気持を知ることすら難しいのなら、少しでも相手と同じことをやってみることが意外と早道なのかも知れない。

こんなことがある。

「自分が好きな人が好きなことを自分も好きになること」

それはこれまでの自分の価値観の評価軸を変えてしまうことである。それまでの自分の経験が全く役に立たなくなることでもある。生命としてはリスクが高く危険なことだ。それでも好きになった人に少しでも近づきたいという感情がそれをさせてしまうのかも知れない。それほどまでに恋も感情もわからない。

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