世界はバランスで成り立っている

「動的平衡」という言葉を聞いたことがあるだろうか。”動的”とはダイナミックなことである。”平衡”とはバランスのことである。ダイナミックにバランスをとること、つまりある2種類のものがコップの中に一定量ずつ入っていて濃さが一定になっているのではなくそれぞれのものが継ぎ足されたりこぼれていったりする中で全体としての濃さが保たれている状態のことと考えてもらえばいい。

人の体は、いやヒトに限らずあらゆる生き物は身体の中の物質のバランスを取ることで生きている。体の外から取り入れる物質、体の中で作り出される物質、体の中で壊されていく物質、体の中で変化していく物質、体の外へ排出される物質。それらの果てしなく膨大な種類の物質が筋肉や脳を動かすエネルギー物質を作り出したりすることで「生きる」ということが成り立っている。

我々は生きる中で常に新しい血液を作ったり古い血液を壊したり、新しい筋肉を作ったり古い筋肉を壊したりしている。しかし一人の体の中に流れている血液の量はその時ごとにそんなには変わらない。作る量と壊す量のバランスが取れているからだ。バランスが崩れて壊す量だけが増えてしまえばたちまち血液は足りなくなる。どうやってバランスを取っているのか各方面で研究がされているがまだまだ謎が多い。しかもバランスを保っているのは血液だけではない。ホルモンやリンパなど一般にも名の知られた物質もあるが内蔵などから分泌される物質には聞いたこともないものが膨大に存在する。その中のいくつかは体の中でどこにどんな作用をもたらしているのかが分かってきたものもある。しかしその一部がわかっただけでそれ以外のことはまだほとんど分かっていないのだ。

健康番組などで話題になることの多い「コレステロール」。脂肪のようなものだが血管を詰まらせたり傷めたりするということですこぶる評判が悪い。いわゆる成人病の原因になるといわれている。成人病対策といえば適度な運動や食事の改善などが取り上げられるがその中では必ずと言っていいほど「低コレステロール」という言葉が使われる。

現代のヒトのように糖質やタンパク質、脂質などを過多といえるほど潤沢に摂れるようになったのは人類の歴史の中ではごく最近のことだ。日本でも昭和40年代以降になってからのことだ。それまでは他の動物たちと同じように常に飢えて食べ物を探すことに一日のほとんどの時間を費やしてきた。体の中は常に飢餓状態だったのだ。それがここ50年ほどの間、主に先進国では食べ物に困るような生活がなくなった。数百万年の歴史の中でほんの最近50年ほどの話だ。200万円のうちの50円ほどの長さの時間である。

それまで人の体は飢餓を耐えしのぐように進化してきた。それがいきなり食べ物があふれる時代になったのだ。それは長くても人間の2世代3世代の間の話だ。体のすべての部位がそんなに急な変化に対応しきれるはずがない。それが成人病という結果になって現れている。古い”飢餓対応”の体ではバランスが取れなくなっているということである。

コレステロールにしても同じことだ。数十年前まで常に飢えていた我々の体が飢えに耐えるために編み出した秘密兵器だった。何日間か食べられなくても死なないように体が作り出したのがコレステロールだった。しかし飽食の時代になってコレステロールは邪魔者になってしまった。しかしコレステロールが体の中で果たしている役割が全部わかったわけではない。まだ我々が知らない研究者ですら知らない役割があるのかもしれない。

悪いことしかしないものなど体は作り出さない。悪いだけのものは排出するように進化してきた。もしコレステロールが悪さしかしないなら栄養が満ち足りるようになった時点で排出されるはずである。そうならないのはコレステロールが我々がまだ知らない何らかの役割を担っている証拠なのではないだろうか。外から入ってきたものでない、我々の体の中で作り出されたものに何も為さずに意味のないものなどないはずなのだ。そして全てはバランスの上に成り立っている。

極論を言えば”ガン細胞”にも何らかの役割があった、いやあるのかもしれない。それが明らかになる頃にはまた我々の生活もまた大きく変わっているのかもしれないが…。

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