文化圏

あなたは普段どのテリトリーで生活しているだろうか。家、学校、職場などそれぞれの環境によって毎日移動する範囲は違っているだろう。中には出張続きでほとんど家に帰れず、全国のホテルを転々としながら生きている人もいるかも知れない。しかし多くの場合は学校に行き職場に行き塾に行き居酒屋に行きレストランに行き、休日にはドライブに行ったりキャンプに行ったりジョギングしたりとあるていどそれぞれのパターンが出来上がっていてその中で暮らしていることが多い。

卑近な例でいえば、ボクがかつてサラリーマンだった頃には毎日平塚の家を出て駅まで行ってJRの通勤電車に乗って東京の職場まで通っていた。行き帰りにはコンビニに寄って買い物をすることもあれば帰りに同僚や友人と飲みに行くこともあった。ところどころで細かい違いはあったが基本的な流れは毎日変わらなかった。

文化圏というものがある。国、宗教、民族、地域など似たような風習や思想、習慣を持った人達が集まったコミュニティである。もちろん国や宗教、民族であれば世界的な広がりを持ったコミュニティになることもあり、時にはそれが紛争に火種になることもある。それぞれのコミュニティには異なったルールがあり共通の話題も違っていることが多い。わかりやすく小さな例でいえば、学校に通っていた頃には「クラス」というまとまりがあった。もちろんクラスは学校から一方的に与えられたもので、その中での共通点といっても年齢くらいで思想や習慣は家庭環境や普段遊んでいる友人などによってそれぞれに違っている。だからいきなり先生に「仲良くしましょう」と言われてもすぐに誰とでも仲良く打ち解けられるものではない。そのうち自然に考え方や生活習慣の似通った友達同士が小さなグループを作るものである。

一方で職場の飲み会では、たまたま隣の席に座った同僚とは部署も違えば仕事内容も違い年齢もそれなりに離れていたとしても、いつも通勤している路線が同じだったりかつて通っていた学校が同じだったりすると急に親近感が湧いたりする。いつも見ている車内広告や車窓から見える景色、かつての学校の恩師のことなど共通の話題を見つけやすいからだ。そういう意味で、狭いところでいえば通勤や通学に使う鉄道やバスの路線や沿線も文化圏の一つということができる。

ボクが今住んでいる地域の周辺にはいくつかの鉄道路線がある。JR東海道線、小田急小田原線、小田急江ノ島線、JR相模線、相鉄線、京浜急行線、JR横須賀線、横浜市営地下鉄、神奈中バスなどなど。学生の頃から毎日使っていた人もいれば就職して、引っ越してきてから使い始めた人もいる。朝の駅のホームに行けば老若男女、全く関係もない様々な人達が集まってくる。共通点は「次にやってくる電車に乗る」ことだけだ。いや「毎日その電車に乗る」ことが共通点の場合も多い。その人達は毎日同じ時間に駅に行き電車に乗って学校や職場に向かっている。

JRの東海道線は最近では群馬や栃木方面の路線とも直通運転をしているので神奈川県を走る電車の中にも栃木の那須の別荘地や群馬県の安中、埼玉県の北本などの住宅地の吊り広告があったりする。神奈川県民でそれらの広告に興味を示す人は少数派だが東京より北の地域には身近なものであるはずだ。しかし東京や横浜までしか行かない神奈川県民も毎日その広告を見ている。自分たちにはあまり関係のない広告でも毎日見ていると少しは記憶の中にも残る。それもまた小さな文化圏の中では共通の情報になる。

どれだけの人が何に興味を持っているのかは正直なところわからない。家を買おうとしている人にはマンションや住宅地の広告が気になり、車を買おうと思っている人は新型車や中古車市場の話題の興味をもつだろう。新しいスマホが欲しい学生にはドコモやauの宣伝が気になり、痩せたいと思っている人にはライザップだったりする。興味の対象なんてうつろいやすくていつも決まったものでもない。ゴルフ、英会話、エステ、マンション、戸建住宅、海外旅行、国内旅行、婚活、お墓…。

それでもバスや電車の車内広告を見ると割と見えてくるものがある。それは恐らくは誰かが決めたものなのだが毎日見ているうちに人々の興味の対象がそれに引きずられることだってある。でも自分の住んでいる地域から外に出ない人に全く異なる離れた場所のイベントの話をしても仕方がない。平塚から電車にさえ乗らない人にとっては東京や埼玉で何があろうと関係ない。それよりも伊勢原の大山(おおやま)祭りや平塚の七夕まつり、花火大会のほうが重要なのである。公共交通機関では時折交通経路調査を実施している。今ではsuicaやpasmoなどのICカードになって自動的に調査できるようになってきたのでそれは広告にも活かされている。

何かの商品やサービスをプロモーションするなら文化圏を抜きにしては語れない。自分の宣伝したいものが受け入れられる文化圏にアプローチしなければ何の意味もない。彼らは興味もないしそもそも知らない遠い土地の話などどうでもいいのだ。

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