飲んでいればいいことありますよ

うちの母は若い頃に漢方薬局で薬剤師をやっていた。薬局は家から遠かったのでボクが薬局を訪ねたことがあるのは1~2回だが、店に入ると漢方薬が入り混じった異様な匂いが鼻についたのを覚えている。薬局を経営していたのは母の高校時代の友人のご主人で、本業ではガソリンスタンドを経営していたのだが興味半分で薬局も始めたのだという。お客が来ることはほとんどなく、当時小学生だったボクからみても典型的な赤字経営の店だった。社長は本業でしこたま儲けているらしく薬局ごときが多少赤字になろうとも全く意に介さない様子で、お客さんに薬を渡すときの紙袋には「一生懸命飲んでください。これ以上は悪くなりませんよ」などと印刷してお客さんから「ふざけやがって」とひんしゅくを買うこともあった。

母親がそんな仕事をしていた関係で思春期のボクは実験台として家で漢方薬を飲まされていた。漢方薬は土瓶に適量を入れてガスコンロにかけ、お湯で煎じて飲むのだが薬の種類によっては強烈な匂いを発することもあった。当時アバタ面だった僕にはニキビを治す薬が良かろうということで母が買って帰ったのが薬草のドクダミがブレンドされた薬だった。ドクダミ、そう道端の側溝の脇などにも自生しているいわゆる雑草の一つだ。その葉を乾燥させてすりつぶしニッキなどの他の薬草と混ぜて煎じるのだ。数カ月にわたって飲ませ続けられたが効果の程はよくわからなかった。効いているような気もするしそうでもないような気もする。ボクにとってはその程度の薬効だった。

鍼灸やツボ、気功や漢方薬などで東洋医学が注目されるようになって久しい。15世紀以降、西洋で発達し17世紀になって蘭学として日本に入ってきたてきた西洋医学に対して古く2000年以上も前から古代の中国で発達してきた医学を東洋医学と呼んでいる。明治以降の日本では西洋医学こそが医学であるという風潮が主流で近代では東洋医学は軽視され顧みられることが少なかった。しかしこの30年ほどで西洋医学のみならず東洋医学を組み合わせた治療が注目されている。

簡単に言ってみれば西洋医学はもともと痛みなどを取り除くことを目的とした対症療法であるのに対して東洋医学は「病気を治す」ことを目的とした根治療法の側面がある。それはそれぞれの医学の発達してきた歴史の違いだ。
体のどこかが痛かったり具合が悪い時、西洋医学では「なぜ痛いのか」の原因を論理的に突き止めてそれを取り除く対応をとる。一方で東洋医学では、原因を考えることはもちろんだが具合の悪いところを治すには何をすればいいのかから考える。

つまり東洋医学は経験上それをやると治ることがわかっているからやるという経験的な治療に根ざしている。その結果不具合も解消されるという根本的な医療が可能なのだ。もちろん見立ての間違いがあれば別の方法もいろいろ試してみる必要がある。だから速攻的に痛みを取るという対症療法は限られている。

一方の西洋医学では痛みの直接的な原因を突き止めて外科的な治療や化学的薬理的に合成された薬を使って行う治療が主流だ。その効果はてきめんだがそれゆえに体に過度の負担をかけて副作用を伴うこともある。いや誤解のないように言っておくが漢方だから副作用がないというわけではない。普段から血圧の低い人にさらに血圧を下げる漢方薬を処方すれば命を落とすことだってある。

かつては漢方薬の成分が何だかわからずどうして効果があるのかもわからなかったが、結果的に病気を治し痛みを取ることができるということがわかっていた。それが今では東洋医学と西洋医学の垣根を下げることで、なぜ東洋医学で病気が治るのかを西洋医学が科学的に分析してその根拠を明らかにするという研究が行われるようになった。これは医療者ではない患者側の私たちにとってもより安心で確実な医療を提供してもらえるようになるという意味でとてもありがたいことだ。

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