教科書は全部やるから意味がある

「星野リゾートの教科書」という本がある。ご存知の方が多いと思うが念のために説明すると、星野リゾートという高級リゾートホテルグループの経営者でもある星野佳路が書いた、星野リゾートの経営のために自分が参考にしている書籍を紹介した本だ。星野リゾートは言うまでもなく今や日本を代表するリゾート経営集団だ。社長の星野佳路氏は全国に展開する旅館やホテルを再生・運営して成功している経営者としてつとに有名である。軽井沢の老舗温泉旅館の長男として生まれた星野氏はその経営形態に行き詰まりを感じて経営を見直すことから始めた。星野氏は自らを「経営の天才ではない」という。自分が参考にしてきたのは古くからある経営の教科書なのだと。

その上で彼は「教科書に書かれていることは正しく、実践で使える」といい切っている。誰もが「教科書なんて古臭い理屈ばかりだ」「所詮教科書は教科書であって実践では役には立たない」といい、時にはバカにする経営者が多い中で逆の意味で尖った発言だ。しかし現に彼は一時はバブル崩壊の逆風にさらされていた観光業で大成功している。ネットで検索すれば星野リゾートが関わって再建した有名ホテルや老舗旅館がズラッと名前を連ねる。しかもそれらは高額な宿泊料金にもかかわらず今や予約を取るのも難しいほどの人気リゾートになっている。

星野氏はそれらの教科書に書いてあることを愚直に全て実行する。ともすれば私たちはテキストに書いてある「効果がありそうな」「簡単にできそうなこと」だけをつまみ食いしてしまいがちだ。しかし星野氏は言う。「教科書通りにやってみてうまく行かなかったときには何かやり残したことがないかどうかを確認する」のだと。教科書に書いてあることはその項目の一つ一つに効果があるのではなく「すべてを完全に理解して消化した上で全部をやって初めて効果が出るのです」と語っている。

自戒の意味を込めて、中途半端に美味しそうなところだけをつまみ食いして上手くいかないからと諦めてしまう人のなんと多いことか。物事を実行に移して行動を始めても、その行動が終始一貫していなければ部下にも信用されない。言うことがコロコロと変わるような人には不安でついていけないと思うのは人の自然な感情である。そのための星野氏のビジョンは「リゾート運営の達人を目指す」だ。そのための目標として「コンセプトを明確に定め顧客満足度を上げよう」を定めた。顧客満足度を向上させるための手段として「全員が自由に意見を出そう」をポリシーとしている。だから星野氏は経営者として現場の判断に介入することはない。トップが判断して命令すれば決定は早いが「全員が自由に意見を出す」ことができなくなってしまうからだ。こうして星野リゾートは出来ている。

トップがブレないこと。そして現場力を味方にすること。
経営でもプロジェクトでも、方向性が決まるとすぐにお金をかけてプロに丸投げしようとすることが多い。しかし日々を現場で過ごしてどっぷりと浸かっているのは現場のスタッフたちだ。今までは上意下達で上の命令を忠実に実行することだけが従業員に求められていた。だから急にトップから言われても「自由に意見を出す」ことにはほとんどの人が抵抗を覚える。だが最前線で接客をしているのは現場のスタッフたちだ。お客様の顔を見て「ありがとう」と言われて一番うれしく感じているのも現場のスタッフだ。だから現場が熱くなればどんな専門家も勝てない。

いいところだけをつまみ食いしても事の本質はわからない。いいと思ったら隅から隅までそっくり真似して行動することこそ肝心なのだと星野氏は言っている。そうしなければ結局は何も完成せず本当の意味がわからない。

ボクも最後までしゃぶり尽くすことを常に意識して愚直に行動したいと思っているのだが、どこまで実行できるのかちょっと自信がない。

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください