ゲーム理論って聞いたことありますか?

学生時代や仕事に就いてから「経済学」を学ばれた方も多いと思います。が、とりすはずっと理科系ばかりに身をおいておりましたのでほんの最近になるまで、実は経済学というものをちゃんと系統立てて学んだことがありませんでした。それでも子供の頃、当時の子供向け雑誌にあったこんなお話があったことを思い出しました。

■ 囚人のジレンマ
こんな話をどこかで聞かれた方もいらっしゃると思います。「囚人のジレンマ」というお話です。お話の概要はこんな感じです。
ある時、海外のある町で2人組の男が銀行に押し入って強盗殺人事件を起こしました。2人は首尾よく大金をせしめて現場から逃走し、隠れ家に奪った現金を隠したところまでは計画は完璧でした。しかし、成功に気を良くした2人は祝杯を上げようと高級レストランに向けて車を走らせていたところハイウェイでスピード違反を犯してパトカーに捕まってしまったのです。2人は警察署に連行され、別々の取調室で取り調べを受けることになりました。この国ではスピード違反の罪は日本とは比べ物にならないくらい重くて懲役1年の罪です。当然、何も言わずに罪を認めれば2人とも懲役1年の刑が待っています。しかしここには司法取引という制度があって、今は隠している強盗殺人について、相手を裏切って自分だけ自白してしまえば自分は警察に協力したということで無罪放免になることになっています。しかし、別の部屋で取り調べを受けている相棒がシラを切り続ければ相棒には懲役10年の刑が待っています。
ところが別の部屋で取り調べを受けている相棒も自分を裏切って自白してしまった時には2人とも懲役8年ということになっています。2人とも銀行強盗をやるほどのワルですからこの司法取引のことは十分に承知しています。しかしお互いに相棒が別の取調室で何を話しているのかは分かりません。
さぁどうする?というお話です。

■ どうするのが一番得なのか?
相手の出方がわからないので、何をどうすれば一番得なのかが判断できない状態です。もちろん、天井裏からこっそりと両方の取調室の様子を見ている人がいたとすれば”2人とも自白しないで黙っている”という方法が双方にとっては一番得(でもありませんが)ということになりますよね。2人の懲罰は2人合わせても懲役2年なんですから。
一方、2人ともが相棒を裏切って(自分だけが得をしようとして)2人とも自白した場合には2人合わせて懲役16年ですから一番損です。片方だけが裏切って相棒だけが懲役10年というのがその中間ですが、相棒が無罪放免なのに自分だけが10年も刑務所に入るのは嫌ですよね。
あなたならどうしますか?

■ ゲーム理論ってなに?
こういう2人の勝ち負け(損得勘定)を数字で表すのが経済学でいう「ゲーム理論」です。「囚人のジレンマ」はその中のパターンの一つで、いわゆる「板挟み」の状態です。もちろん世の中は単純な損得事情だけで成り立っているわけではないので、これを当てはめたからといってすぐに理想的な答えが出るわけではありませんが、まずは起こっていることを切り分けて単純化して考えてみよう、ということです。
これは自社とライバル会社との競争に置き換えることもできるんです。例えば、よくある”価格競争”というものを考えてみてください。問題を単純化するために、ライバル店であるA店とB店の2つが値下げ競争でお客さんを取り込もうとします。値下げ額は両方とも同じです。その時にA店だけが値下げするとA店はお客さんが増えて利益が5万円増えました。一方のB店はお客さんが減って10万円利益が少なくなります。また両方とも値下げをしたときには両店とも利益が5万円ずつ減ります。お客さんだけが得するわけです。両方とも値下げをせずに現状維持すれば当然両方とも利益は増えませんが減りもしません。
つまり両店が価格協定を結んで値下げしないことが一番妥当な選択、なんですが、実際にはカルテルと呼ばれて法律でも禁止されていますよね。もっとも現実には両方ともが値下げをすれば両方とも損をすることは分かっていますから暗黙の了解で値段を合わせていることがほとんどなのはご存知のとおりです。
ところが現実には抜け駆けして自分だけが得をしようとする場合もあります。一頃の牛丼チェーンの果てしない価格競争もその一つです。ほとんど赤字すれすれまで値下げしたり期間限定で採算割れさせたりしていました。
本来の価格競争は相手が潰れるまでやらなければ意味がないとされています。ライバルがいなくなれば市場は自分ひとりで独占できますから、それから値上げして損した分を回収すればいいわけです。ところが規模の差がそれほど変わらない場合は、ただの消耗戦になって皆んなが損するだけで明るい未来はやってこないわけです。
ただそれでも相手が一方的に値下げに踏み切った場合はどうしましょう? 自分の方も対抗して値下げをしてしまうのではないでしょうか? そうしなければ「自分だけが損をする」と思ってしまいがちですものね。だからほとんどの企業がそうした対抗策から価格競争の泥沼に陥って苦境に立たされてしまうのです。

■ ニッチもサッチもいかない場合
もっと大きな戦略としては国家と国家の関係などがあります。例えば今現在、戦争している国同士があったとします。戦場では銃弾や砲弾が飛び交い、自分が撃たなければ相手に撃たれる、というような状況では自分だけが撃つのをやめることは出来ません。ですから戦闘は果てしなく続きます。
逆に何かのきっかけで停戦条約が結ばれた場合は”撃たない”状態が続くわけです。もちろんどちらかが条約を無視して一発でも打てばまた永遠に続く戦闘状態の戻って損害が出てしまいます。
こんな状態を経済学では「ナッシュ均衡」といってお互いがニッチもサッチもいかない、動けない状態のことを指します。
戦闘状態も停戦状態も均衡(バランス)していることには変わりないんですね。現実社会ではほとんどの場合でこのようなバランスが保たれていて、それが崩れた時にどう動くべきかという戦略を立てる時にゲーム理論が役に立っています。

■ 目先を変えてみる
相手の都合で均衡状態が壊されて泥沼化が始まりそうだと感じたら、相手と同じことをやってはいけません。相手が苦境に立つのはまだしも自分自身もそれに巻き込まれてしまうからです。そんなときこそ目線を変えて違う道を探すべきでしょう。例えばそれは「高級化路線」であったり「新商品開発」であったりします。でもそれはそう簡単に実現できる可能性は低いものです。そのために「ブランド化」などという方法を使って相手との差別化を図るのです。
「ブランド」は長い歴史と信用がなければ出来ないと考えがちですが、そうではありません。以前にもお話したように「自分の信念」と「お客様に信念」がビビっと共感しあった時にブランドが確立されます。まずは自分の考えや信念を明確に打ち出すことが大切です。でも常に”正しく誠実な”信念でなくてはダメですよ(笑)

今回はゲーム理論から相手を意識したマーケティングのお話でしたが、ゲーム理論はかなり奥が深くて全部を知ろうと思うと相当大変なんだそうです。とりすはたまたま経済学の勉強をしなければならないことがあって最初は嫌々始めたのですが、始めてみると経済学には意外なところに面白さがあり(アベノミクスや日銀の金融政策の意味が分かってきたり)概論だけでも楽しく勉強させていただきました。
何だか知らなかったことを学ぶっていうのは楽しくなり、自分は学生時代になぜもっと勉強をしなかったんだろうと悔やまれることしきりです(苦笑)