空気読めない男

午後2時過ぎに入った定食屋はほとんど満席だった。後からやって来た客が入り口で行列している。ボクが座ったテーブルの隣には既に食べ終わった30代のサラリーマン風がスマホ画面と睨めっこしていた。
ボクが注文してから10分ほどで料理が出てきた。昔から早食いだったボクも最近では意識してゆっくり食べるようにしている。テレビの健康番組でも言っていたのでサラダなどの野菜や肉、魚から食べ始めて炭水化物は最後に食べると血糖値の急上昇を避けるにはいいらしい。子供の頃は給食でも「三角食べ」が良しとされ、同じものばかりを食べるのは行儀の悪いこととされていたが、いつの間にか変わったらしい。

若い頃なら5分ほどで食べていた定食も20分ほどかけて食べる。確かに途中で胃袋も膨れてくるので「ご飯のお代わりは自由です」と言われたが1杯でやめておくことにした。
食べ終わってふと隣のテーブルを見ると先ほどのサラリーマン風がまだスマホを睨んでいる。何をしているのかと思ったら案の定ゲームだ。
いや何もゲームをするなと言っているのではない。しかし入口にはまだ席につけない客が順番を待っている。こういう時にも何も感じない人なんだなと思って店を後にした。

店に入って料理を注文して食べ終わった後、食休みでしばらくゆっくりしようと思うのは当然だしボクだってそうする。しかし入口で暑い中順番を待っている人が見えたなら早めに店を出てテーブルを空けようと少なくともボクなら思う。逆の立場だったら、店先に立って並んでいるよりできることなら早く席について食事を始めたいと思う。

自分が座っている席は自分のために用意された席だしお金も払っているのだからいつまで座っていようが文句を言われる筋合いはない。別にどうしようといいのだ。ただここは定食屋だ。カフェではない。「この人は店の空気が読めないんだな」と少なくともボクには思われたわけだ。

空気を読んでばかりいて周りに気を使うことはバカバカしいことだという人もいる。考えは人それぞれだからそのことについていい悪いを言う立場にもないしどうこう言うつもりもない。
しかし定食屋で既に食事が終わっているのに自分がスマホゲームをやりたいがために他の人を30分も待たせて平気でいるような人とは、ボクは付き合いたくないし仕事もしたくない。細かいことに気づけない人に仕事のできた人は今まで1人もいなかった。

自分のことしか考えていない人、自分さえ良ければいいと思っている人、他人のことを顧みない人は相手の立場になって考えることができない。一見相手のことを考えているように見えてもその実は自分に都合のいいことだけを考えている。そんな人と仕事をしてうまくいったこともない。

空気読むことなんて気が小さい男のやることだと笑う人がいる。そんなチマチマしたことを考えている男に大きな仕事はできないと言う人がいる。しかし、その人の言うように他人のことを思いやることのできない大雑把な男が実行力のある優れた人間なのだとしても、ボクは周りのことにいつも目を配れるような、そんな気の小さな男であることを自慢に思っている。