ルーティーン

ちょっと前にラグビーの五郎丸歩選手の”ルーティーン”が有名になった。トライした後のゴールキックの前にやるお決まりの一連の動作だ。
他のスポーツ選手でも普通の人でもいつも決まったタイミングで決まった動作をすることがある。テニスの世界的トッププレイヤーであるスペインのラファエル・ナダル選手は、いつも飲みかけのボトルをコート脇の自分のベンチの前に”ラベルをきっちり前に並べて”置いている。ちょっとでもズレていると気になるらしい。これをルーティーンという。縁起を担ぐ意味もあるのだろうが、いつも通りの決まった動作をすることでいつも通りの動きを引き出す作用があるというのだ。

普通の人でも朝起きたら一番にコップ一杯の水を飲んでから朝のお勤めを済ませてお決まりのマンデリンコーヒーを飲む、などがそれに当たる。仕事を始める時にパソコンのスイッチを入れてメールを確認しなければ済まない人もいるだろう。ルーティーンは誰しもが普段気づかないうちにやっている一連の行動でもある。

ただ今回テーマにしたいのはこういったおまじない的で儀式的な話ではない。

物事にはある程度の単位で一気にやってしまわなければいけないことがある。途中で行動を中断したりやめてしまったら、次はまた最初からやり直さなければならないようなことだ。
品質管理部門で完成した製品の検査をやっているとしよう。検査項目は85ヶ所だ。検査中に78ヶ所の検査が終わったところで課長が声を掛けてきた。あとちょっとでこの製品の検査が終わるところなので「ちょっと待ってください」と言って残りの検査を終わらせることはよくある。残りの7ヶ所を残して課長と話し始めてしまったら既に終わった78ヶ所ぶんの検査時間が無駄になる。それはどこまでの検査を終えたかを忘れてしまうことかもしれないし、検査を中断している間に不可抗力で検査済みの部分に新たに不具合を発生させてしまうようなことがないとも言い切れないからだ。一方で検査を終えて次の工程に渡してしまえばそのような心配もなくなる。

ボクはダイビングで水中写真を撮っている。カメラやストロボを海の中に持って入るのでカメラなどを防水ケースの中に入れて行くわけだ。水中でも中身のカメラを操作する必要があるのでその防水ケースにはかなりナイーブな防水の仕掛けが施してある。蓋の部分にはゴムの防水リングがはめ込まれてあるのだが、ここに髪の毛1本でも挟み込んでしまったら中身は即水没してオシャカになる。防水ケースも無事では済まない。これら一式で100万円近いものが一瞬でパァになってしまうから潜る前のセッティング作業には誰もが真剣になる。

そんな時に横から声を掛けるとほとんどの人は「ちょっと待って」と言ってセッティングを最後まで終わらせてしまうか、仕掛かり後まだあまり作業をしていなければ一旦中断して再開時には最初からその作業をやり直すかのどちらかを選択する。

ところがあるとき、最後に蓋を閉める直前に作業を中断して部屋の外にタバコを吸いに行った人がいた。タバコを吸いながら他の友人と話が弾み、それまで自分がやっていた作業のことをすっかり忘れてしまった。翌日、彼はダイビングに向かう前に念のためカメラの防水をチェックしようと、まだ完全に蓋をしていない防水ケースをカメラごと水槽の中にドブンと浸けてしまったのである。そういうことである。

何かの作業を中断するなら、ある工程までをやり終わったという”証拠”や”痕跡”を残しておかなくてはいけない。そして次はその後から再開すればいい訳だ。しかし前述のように作業を中断したことさえ忘れてしまったら手が付けられない。だからこそその状態で次の工程が動き出しても問題ないところまでは最低でも工程を済ませておかなければいけないのだ。

「アレはもう終わったんだっけかな?」などと迷ったら最初からやり直すべきだ。それをしないからミスが起こる。これは職場でも家庭生活でもどこでも起こることだ。ほとんどの人は日常生活の中でルーティーンを決めていることが多い。だが慣れない作業を始める時にも、どこまでを一連の工程にするべきかを考えて、あなたのルーティーンを決めるべきではないだろうか。