あなたはどこのファンですか?

プロ野球チームの話である。かつて昭和の時代には営業でどこの得意先に行ってもそう訊かれた。ボクはプロ野球にまったく興味はなかったが「横浜(大洋ホエールズ)です」と答えていた。「誰(選手)が贔屓なんですか?」と訊かれてもいいように監督と4番バッターの名前は覚えた。マイナーでシブい選手の名前を答えたりするとすぐにボロが出るからだ。
当時は、贔屓のプロ野球チームがないということは、西洋人が「無宗教です」と答えるのと同じくらい宇宙人か悪魔のように見られたものだ。だがそんなにプロ野球が大切だったのか。いやそうではない。

お互いに共通の話題がないから、話題の引き出しが少ないからプロ野球の話を持ち出しているだけだ。だから天気の話題(「今日は暑いですね。これからも続くんですかね?」)でも良かったわけだ。しかし天気の話題ではあまりにも一般的で突っ込んだ話ができそうもないから、代わりに持ち出されたのがプロ野球なのではないかと思っていた。

しかしそうでもない人もいたのである。ボクに向かって本気でプロ野球のペナントレースの話や各球団の評価を語り始める人がいた。ボクが「実はあまり詳しくないんですよ」と言っても話をやめようとしない。日本国民はすべからくプロ野球好きだと信じているようだった。

ボクはサッカーの競技自体に興味がないからワールドカップだといっても取り立てて見ることはない。もっともJリーグが発足するときに営業で行ったサッカー連盟や読売クラブ(現FC東京?)、全日空(どこかと合併したはず)、トヨタ(現グランパス)、日産自動車(現横浜マリノス?)、松下電器(現ガンバ大阪)、住友軽金属(現鹿島アントラーズ)、JR東日本古河(現柏レイソル?)などのJリーグに参加予定のチームに行く時にはそれなりにサッカー情勢を勉強していった。

たしかにサッカーのワールドカップだといえばにわかサッカーファンが増え、羽生結弦くんが国民栄誉賞だといえばフィギアスケートファンで溢れる。昔からミーちゃんハーちゃんだとにわかファン(いわゆるミーハー)はたくさんいたが”個性”の時代になってもこの様相はあまり変わらないようだ。

だからといってボクはスポーツ嫌いというわけでもない。もっとも観戦するより自分でプレーしたほうが楽しいのだがテニスの試合は割と見ている。もっともグランドスラムやオリンピック、ATPツアーくらいなのでテニスミーハーといったところだろうか。しかしテニスでも誰かのファンということはない。テレビでは(我が家にCS放送などありません)では日本人が出る試合ばかりが中継され、トーナメントの途中で日本人が負けるとその後はほとんど放送しなくなってしまうが、やっぱり準決勝・決勝に残る選手のプレーは凄い。それこそがお目当てでもあるのだ。だから日本人選手が準決勝や決勝に残ってくれると有り難い。

ボクはテレビで試合を見ていても、特段に誰かを応援しているということはない。超人たちのスーパープレイを見たいだけだ。1回戦からずっと見ていてもトーナメント終盤の試合では白熱したスーパープレーが続出する。そりゃ強い選手同士なのだからギリギリのせめぎ合いになるのは当然だ。なのに(無料)放送だと日本人のいない試合の扱いは格段に悪い。それはフィギアスケートでも同じだ。日本人選手以外はカットする民放局まである。そんなことではコアなフィギアスケートファンの心は掴めない。いや放送局は掴まなくてもいいと思っているのだ。多くの人にコマーシャルを見てもらえるのならミーハーだけを相手にしていればいいからだ。以前にも書いたが、だからテレビは衰退している。

昭和の時代はプロ野球中継といえば巨人戦しか中継しなかった。巨人戦以外は視聴率が獲れなかった。だからロッテオリオンズ(現千葉ロッテ)や大洋ホエールズ(現横浜DeNA)のフランチャイズだった川崎球場(神奈川県)は「テレビじゃ見れない川崎劇場」(テレビ中継されないから)というキャッチフレーズで集客していた。当時はプロ野球ファンといえば巨人ファンか阪神ファンのことでパ・リーグは言うに及ばずヤクルトや(広島県以外で)広島ファンだと言うと奇異の目で見られたものだ。

そして巨人ファンvs阪神ファンという構図を作り上げてお互いが相手の好きなチームの悪口を言い合っていた。そこには「好きなチームが同じ=味方」という心理効果が働き、同じチームを好きな者同士がより親密になれるという効果もあったようだ。ただそれだけで商談に有利な状況を作り出せたのかどうかは定かではないが、不利になることはなかったと思う。

ボクは今ではあまりテレビでスポーツを観戦しない。なぜなら他人がやっているのを見るより自分でやる方が何倍も楽しいからだ。スーパープレーを見れば「凄い!」と思うが楽しいわけではない。