あらゆるものは値段に換算される

モノを買う時にはお金を払う。乗り物に乗る時にもお金を払う。お金は”対価”と言われることもある。つまりそのモノの”価値”を表す。
お金のことを経済学では「貨幣」と呼ぶ。貨幣経済の貨幣だ。お金だけではなく銀行預金や株などの有価証券も貨幣と呼ぶ。かつては物々交換などで成り立っていた経済が貨幣を導入することで圧倒的に便利になった。「海幸彦と山幸彦(うみさちひことやまさちひこ)」の兄弟の話をご存知だろう。山で猟をするのが得意な山幸彦と海で魚を獲るのが得意な海幸彦が、いつもはお互いの獲物を交換していたのだが「たまにはいつもと違うものを獲ってみたい」と言い、弓矢と釣針を交換してそれぞれが獲物を獲りに行く話である。
話は逸れるが、ここに出てくる山幸彦は天皇家の初代・神武(じんむ)天皇の祖先である(と言われている)。

お互いに不得意なことをやって何も獲れずに終わるのだが、経済学的に見ると魚と獣のどちらを獲るのがより大変か、ということになる。鹿1頭とアジ1匹では鹿のほうが食べるところも多く価値がありそうだ。ではネズミ1匹と鯛1匹だったらどうだろう?ボクはネズミを食べたことはまだないが何となく鯛のほうが有り難いように思う。もっと話を広げてりんご1個とみかん1個だったら、いちご10個とぶどう一房だったらと見ていくとそれぞれの価値を比べるのはかなり手間で大変だ。そればかりか諍い(いさかい)だって起こりかねない。
そんな時に便利なのが貨幣だ。いわゆる”お金”には次の3つの機能がある。

1.交換仲介機能
2.価値尺度機能
3.価値保存機能

1.の交換仲介機能とは、いろいろなものと交換できる機能だ。簡単に言えばモノを買うということはモノとお金を交換することだ。
2.の価値尺度機能は先に書いた形や種類が違うものを比較できる機能ということになる。例えば「プリウスならニワトリ50羽、シビックは豚2匹と交換します」と言われてもどちらが安いのかを比べることさえ大変だ。しかしそれぞれに値段が付けてあれば貨幣を仲介として比べることができる。
3.の価値保存機能は腐ったり壊れたりしにくく持ち運びにも便利な機能だ。今では銀行振込や電子マネーなどで瞬時に取引できるようになっている。

だから市場にあるあらゆるものに値段が付いて貨幣で取引される。価値観が違うものであっても貨幣を仲介として等価交換が可能になる。
クレジットカード会社のCMで「Priceless」と謳っているのをよく見る。お金では買えない価値がある、と言いたいのだと思う。しかしそれはよく見れば「その価値をカードで買いましょう」と言っているに過ぎない。それを体験するためにはやはりお金が必要だ。

それを言うなら「(値段に関係なく)いいものはいいよね」である。先日、TV番組で「ロンドンの蚤の市で500万円のティーカップが1,300円で売られていた」という話をしていたが、それは単に値段をつけた人の価値観が違っただけで、そのティーカップの価値が変わったわけではない。
他にも「1匹10万円のメダカ」とか「1杯1万円のラーメン」などもよく話題になるが、それも単に珍しいからだとか金箔を入れたからに過ぎない。ラーメンの価値ではなく金箔の価値だ。
ただお互いがその価値観を共有すれば取引は成立する。身体が丈夫で病気をしないメダカであるとかとても美味しいラーメンであるとかとは無関係だ。価値観が違うのだ。

だから何かをより高く売ろうとするなら相手の価値観を知ってそれに合わせてマーケティングをしなければいけない。売り手が示す価値観に共感すれば買い手は高い値段でも買ってくれる。それが市場だ。

その市場で、同じ値段で買い手の感じている価値の10倍の価値を提供したら喜ばれないだろうか。1,000円の価値があると買い手が感じているものを100円で売ったら喜ばれないだろうか。
もちろん1,000円で仕入れたものを100円で売れば自分に損失が出る。それを未来永劫続けていくことは無理だ。

だが10円で仕入れたものに90円かけて1,000円の価値を感じられるものにすることは可能だ。もちろん買い手に1,000円の価値を感じてもらえるものを付け加えなければならない。
しかし実際に塩化ビニールで出来たブランドバッグは店頭で数十万円で普通に売られている。そのカバン自体に数十万円の価値があるとは思えないが、買い手にとってはブランドの名前が印刷されたバッグにはその価値を感じるわけだ。買い手は原価数千円のバッグと数十万円の貨幣を交換しても「騙された」とも言わずに喜ぶ。それを付加価値という。

等価交換する価値の10倍の価値を相手に与えたらどうだろう。恐らくあなたを知らない人には最初は疑われる。「騙そうとしている」と思われる。そんな人は滅多にいないからだ。しかしあなたがその価値を与え続けたなら、あなたはそのうち信用されるようになる。そうやって築いた信用はあなたが相手に与えた価値の何十倍にもなるのだ。