老人の恋

ボクは医療現場や介護現場で働いた経験はない。経験がないのであくまでシロートとして外部から見た感想である。
先日、テレビで老人介護についての番組をやっていた。若い頃なら大して興味もなかったが、そろそろ親の介護が現実問題になってくると他人事ではいられないというのが偽らざる気持ちである。
番組には介護老人を持つ世代や介護施設に務める人、介護の専門家という人が出演してそれぞれに意見を述べていた。

”介護”と一口に言ってもその中身は本人の身体や精神状態、家庭の事情などによって様々なのだという。それはそうだろう。寝たきりの人もいれば認知症の人もいる。かと思えば日常生活にはほとんど困っていない元気な老人もいる。状況によって本人との関わり方はケースバイケースで一概には語れないらしい。

そんな中で不思議に思ったことがある。老人に対する行動の制約だ。制約と聞くとすぐに”拘束”などという場面を思い浮かべがちだ。これは最近では老人に限らず、精神疾患や発達障害などで周囲に暴力をふるったり自傷行為を繰り返す患者でも問題になっている。手足を縛ったり部屋に外から鍵を掛けて自由を奪うことの是非についてだ。しかしここでいう行動の制約とはそういった物理的な拘束のことではない。

老人介護施設にもいくつかの種類があるらしく、特別養護老人ホーム(特養)や有料老人ホーム、ケアハウス などに分かれているという。それぞれ公立だったり私立だったり介護のレベルや入居の決まりも様々なのだが、その中で認知症を患った老人たちが共同生活を営むグループホームという施設がある。
それはとあるグループホームで実際にあったことらしい。80代の女性と90代の男性入居者が施設で知り合って恋愛をしたのだという。もちろんそれぞれのパートナーとは既に死別しており、二人共独身だ。

ある日、施設の職員が見回りをしていたところその男性の部屋に鍵がかかっていて中に入れなかったことがあった。ドアをノックしても中からは返事がない。何か不測の事態が起こっているといけないので職員はマスターキーで鍵を開けて部屋の中に入った。するとそこには1つのベッドに入って添い寝する二人がいた。職員はびっくりして二人を引き離して女性を部屋の外に引きずり出したのだという。

何がいけないのだろう。もちろんその施設には人気アイドルグループのような”恋愛禁止”の掟はない。そもそも二人は立派な大人なのである。

老人になると恋愛してはいけないのだろうか?
出演者たちも言外に「いい歳して」という表情を見せていた。「いい歳」になると恋はご法度なのか。それではいくつまでなら許されるのか。

”介護の専門家”だという出演者は「この先、結婚などということになれば財産分与の問題が…」などと言っていたが、介護施設は遺産の相続人ではないのだから相続は本人たちと親族の問題である。親族に不都合があるのなら親族が本人と話し合えばいいことだ。もちろん本人が認知症で合理的な判断ができなくなっている場合もあるだろう。しかしそれは他に成年後見人などの制度がある。そこで解決する問題のはずだ。介護施設とは関係ない。

風紀が乱れるとは中高生の頃には学校で言われたことだが、もはやこれから子供ができる歳でもない。老人たちがチュッチュしたって誰に迷惑がかかるものでもない。かえって微笑ましく思うのはボクがまだ老人介護の現実を知らないからなンだろうか。実際、その年老いた恋人たちは数年後、それぞれが幸せな笑顔で安らかにこの世を後にしたという。

自分がやがて歳をとって老人と呼ばれるようになった時、「ハイ、もう70歳なんだから恋愛は禁止ですよぉ~」などと言われたらどう思うのだろうか。「80歳のくせに恋愛ドラマなんて見ないで下さい」と言われたらどう思うのだろうか。

「いい歳をして…」

他の人を好きになったくらいで自分より若い世代からそんな事を言われたら自分は自分の歩んできた人生をどう思うのだろうか。
長い人生の終わりに楽しい夢をみることも許されないのだろうか。「そうだな、もう歳なんだから何でも自由にやってはいけないな」と思わなければいけないのだろうか。そんな固定概念に囚われて寂しい人生の最後を迎えるのは寂しすぎると思うのはボクだけなのだろうか。