人間が横暴で尊大になる時

1970年代のアメリカ・スタンフォード大学の心理学部で一つの実験が行われた。のちに「スタンフォード監獄実験」と呼ばれるものである。
心理学者のフィリップ・ジンバルドーによって行われたこの実験は、被験者(実験の対象となる人)を2つの集団に分け、一つを看守役、もう片方を囚人役として2週間の予定で開始された。
囚人役には屈辱感を与えるために看守役の前で着替えさせたり足かせ(両足に付ける鍵がついた金属製の鎖)を付けたりした。看守役は囚人役に表情を読み取られないようにサングラスを掛けさせ、夜中に囚人役を無理やり起こすなどのイジメをするように指示した。
すると数日後には看守に対して何の指示も与えていないのに看守役は囚人役に対して暴力行為(暴力は実験前に禁止していたにもかかわらず)まではたらくようになったのだという。
その実験は事態が深刻になってしまったので実験の監視役であるカウンセラーによって6日間で中止された。しかしこの時、看守役だった被験者は「話が違う」と続行を希望したのだという。

この実験は、普通の人が特殊な肩書きや地位を与えられるとその役割に合わせて行動してしまうことを証明しようとした実験だったのだが図らずも、人が強大な権力や武器を持つと性格が悪く横柄で独裁的かつ暴力的になるということをも証明してしまった。
後日、この実験に関する疑義が出され信憑性に問題があるとも言われているが、一頃の日本の警察官も、何の問題もない一般市民に向かって「おいコラ、オマエ」などと発言していたことを考え合わせるとかなり信じるに足るものである。実際に日本の刑務所でも刑務官の囚人に対する暴力行為は今でも問題になることがある。

これに先立つこと10年ほど前、イエール大学で行われた「ミルグラム実験」と言われるものがある。これは人間の「権威に対する盲目的な服従」を証明した心理実験だ。
これも実験に参加することでお金をもらえることを条件に被験者を募集する。その後、被験者を2つのグループに分けて行うのであるが、一つは「教師役」としもう片方を「生徒役」にする。
それぞれをインターホンで繋がれた別室に入れ、教師役は生徒役にインターホンを通じて問題を出す。生徒役の腕には簡単には外せない金属製の電極が付けられている。生徒役は教師役の出す問題に答えるのだが、答えを間違えたら教師役が生徒役に電気ショックの罰を与える事になっている。電気ショックは最初15ボルトから始め、生徒が一つ答えを間違えるごとに強くしていく。
教師役に渡されている電気ショックの目安表では、15ボルト:軽い衝撃、75ボルト:中くらいの衝撃、135ボルト:強い衝撃となっており、315ボルト:甚だしく激しい衝撃、375ボルト:危険で苛烈な衝撃と書かれている。その上には435ボルト、450ボルトの欄もあるが衝撃の程度は書かれていない。

実験が始まり生徒が問題を間違えるたびに教師役は躊躇なく電気ショックを与える。お互いの姿は見えないが電圧が上がるたびにインターホンからは生徒役の拷問を受けているかのような絶叫して苦しむ声が教師役に聞こえてくる。さすがに教師役が「これ以上はやめたほうが…」と言っても白衣を着た博士らしき男は顔色一つ変えずに「続けてください」と言うばかりだ。
教師役が5回目に継続中止を訴えた場合にはその時点で実験は中止されるが、結果的に実験に参加した教師役40人のうち12人は最大電圧である450ボルトまでスイッチを入れたどころか、電圧が300ボルトに達する前に実験を中止した人は一人もいなかった。
この実験の場合、実際には生徒役に電気ショックを与えることはなかったのだが、教師役は相手に電気ショックを与えていると思っていたのだ。

このように人は自分が権力を手にしたり権力を持つ人から命令されると残虐なことでも盲目的に行なってしまう習性があるということである。実際に学校やサラリーマン社会でもイジメが問題になっている。特にサラリーマンのヒエラルキーの中では上司や社長に逆らったり意見することで自分の立場を危うくすることが一般的にはまだ多い。そんな中で権力を持った人間が非道な行動に走ってしまうことが多く、気がついた時には組織が崩壊する危機に陥ってしまうことがあるということを誰もが肝に銘じておかなければならない。

弱い立場の人間が権威や権力に逆らうことはとても難しいのだ。