ノーアポ礼賛

今は営業職でない方でも新入社員の頃に研修などで営業を経験された方も多いことと思う。営業部の先輩社員に同行したり飛び込み営業をしてみたりと営業の方法は様々だ。
そんな中に”電話を掛ける”という業務もある。
例えばテレセールスだ。リストを見ながら知らない相手にいきなり電話をかけて物やサービスを売り込むセールス方法だ。たぶん誰でも一度や二度はお墓やマンションなどの売り込みの電話を受けたことがあるだろう。大抵は業務が立て込んで忙しい時にかかってくるものだから迷惑千万である。腹を立て怒鳴り散らして電話を切った経験のある人もいるのではないだろうか。

ところがそのようなセールスの電話を掛けてくるのはほとんどの場合が専門のコールセンターに勤めている人である。なぜなら普通の企業の一般社員にそのようなことをやらせたら1週間ももたずに辞めてしまうからだ。これをアウトバウンドと呼んだりする。
誰だって知らない相手にいきなり電話を掛けて、即座に断られ嫌味を言われ罵倒されることが楽しい訳がない。実際にコールセンター勤務を経験したことのある同僚や友人も最初の1~2ヶ月で精神的におかしくなり、うつ病を発症してしまった人も多い。それくらいコールセンターでもアウトバウンドでテレセールスをすることは精神的な負担が大きく辛い仕事である。

知らない相手に電話を掛ける業務としては”テレアポ”という業務もある。新規のお客さんに電話を掛けてセールスに行くためのアポイントを取るのだ。これは今でも新入社員教育のOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)として行われることが多い。目的は相手のアポイントを取るだけなのでテレセールスよりはハードルは低いもののアポイントを取ることはそんなに簡単ではない。慣れた人でも20件電話して一件のアポイントが取れればいい方で、経験が浅いうちは100件掛けても一つもアポが取れないことも珍しくない。
電話を掛けても掛けても断られ続けるのはやはり精神衛生上も良くないことで、だんだんと無為感を覚えるようになってくる。「こんなことやって何の意味があるのだろう?」などと思い始めたら精神がやみ始めた兆候だ。これを克服する方法もあるのだがそれはまた別の機会に譲ろう。

知らない相手にアポを取ろうとすれば断られる。セールスだと分かっているから面倒くさいと思うし自分が興味ないものならなおさらだ。
ところが不思議な事にノーアポで飛び込みセールスをすると意外と会ってくれることもあるのだ。ただしこれにはいくつかの条件がある。

まずは受付に行く前に、自分が会って話をしたい相手の部署をある程度絞っておくこと。社内に置く自動販売機の売り込みに行くのに開発部長や企画部長と会っても仕方がない。庶務や総務に行くべきである。もっとも企業の受付は庶務や総務がやっていることも多いのでこの場合はややハードルが低い。小規模の会社なら社長を指名するのもありかも知れない。

そして次はその担当者が”ヒマ”な時間帯を狙うこと。そりゃそうだ。忙しい時に見ず知らずの人の話を聞く暇などない。だから朝の始業直後や昼休み直前直後、終業直前などは避けなくてはいけない。できれば午前10時から11時、午後なら2時から4時位の間がベストだ。相手もちょっと気が抜けていることが多い。
ただその時間帯は会議が行われていることも多く”席を外しています”と言われることもある。会議は月曜日、水曜日、木曜日に好んで行われる傾向があるのでそのあたりも考慮するといい。

そして3番めには清潔感のある服装で訪問すること。
誰だって不潔な人とは話したくない。奇抜な服装やリクルートスーツなどは避け、あまり目立たない服装が良い。セールスと言うと「相手に強い印象を残すことが大切だ」などという人もいるが実際のところまったく当てにならない。最初は相手に威圧感を与えないことが大切だ。

そして受付では来訪の目的と会いたい担当者の概要を簡潔に伝える。
受付の人の仕事は訪問者の話を聞くことではなく、訪問者が探している人を見つけて引き継ぐことだ。いきなり売り込みをされたら勘弁してくれという感じである。そして受付の人の顔色を見ながら、すぐに取り次いでくれそうなら問題ないがちょっとでも渋そうな表情が見て取れたなら「ちょっとご挨拶をさせていただきたい」と付け加える。すると「挨拶くらいなら」と気軽に取り次いでくれることもあるし取次ぎの連絡を受けた担当者も気軽に名刺を持って出てきてくれることがある。

そして担当者とめでたく面会が果たせたならまずは万々歳である。あとは相手の都合と興味の度合いを見極めながら簡単にこちらの説明をした上で相手に自慢話をさせるように話を振るだけである。この先のセールスの本題については今回の話題からは逸れるのでまた別の機会に書いてみたいと思う。

普通は”失礼”と思われているノーアポも営業の仕方や売るものによっては効果があることもあるということだ。失礼を承知でノーアポで飛び込むこともやり方としてはアリだということである。受付で相手が慌てていると取り次いでくれることもある。
そして電話だけでは知り得なかった情報も、短い時間であっても直接会うことで知ることができたりする。直接顔を合わせて話をすることの情報量には計り知れないものがある。

ただし長時間かかる用件では逆効果だ。しつこく食い下がれば相手は二度と会ってくれない。ノーアポでは第一印象と同じくらい切り上げるタイミングも重要なのだ。

そして1度でも顔を合わせていれば、2回目からは初対面ではなくなるのでアポを取りやすくなるというわけだ。