お新しいのがお好き

「女房と畳は新しいほどいい」
昭和な時代にはよく言われていた言葉だが今そんな事を小声ででも聞かれたら社会的に抹殺されるような時代である。先日「戦後強くなったのはオンナとストッキングだねぇ」なんて話をしていたら友人の女性が「あらやだ、最近のストッキングはすぐに破れるのよ」と怒っていた。それぞれに悩みはあるらしい。

■新しいものが大好きな日本人
車でもスマホでも家でも化粧品でも育毛剤でも日本人は新しいものが大好きだ。今持っているものがまだ使えても新製品が出ると買い換える人がたくさんいる。それはただ単に新しいものがいいのか新型だから買い替えたくなるのか人それぞれに違うのだろうがいずれにせよ今のボクにはよく分からない。古いほうがいいと思っているのは就職する会社を選ぶときくらいではないだろうか。多くの学生やその親達は古くて歴史のある大企業が好きだ。恐らくそれは古い大企業は経営的にも安定していて潰れることもなく給料も高いだろうという希望的観測によるものだ。たしかに大企業が倒産する可能性は中小零細企業に比べれば少ないのかも知れない。まんざら間違ってもいないと思うが、企業が潰れないことと自分が安定して雇ってもらえることは別問題である。

■新しいものが良いわけ
”新しいものがいい”というのは古いものに比べて壊れたり不具合が起きにくいだろうという想定があるからだ。一方で古いものは今まで長い間壊れずに使えたという安定感の担保もある。どちらを重要視するかはモノの性質と個人的な価値観に依るところが大きい。古いものは経年劣化が進んで「今まで10年以上も故障しなかった」ものが明日にでも壊れるかも知れない。一方で新しいものは長期間の使用に耐えたという実績はないが古いものに比べて経年劣化はない。人はこのあたりのバランスを考えながらモノを買う。そして日本では一般的に中古品のほうが安い。

そして新製品の魅力は一般的に”古いものより優れている”点だろう。
同じ会社が出している同じような製品なら新しいものには何かしらの”新機能”が追加されていることが多い。テレビコマーシャルを見ていても「自動ブレーキ」だの「自動運転」だの「10倍の洗浄力(当社比)」だの「4Kテレビ」だのと新機能のアピールが引きも切らない。これを見れば「そりゃいい!」と誰しもが思うだろう。いや思う人が多いだろう。…思う人もいるかも知れない。

■それ、本当に必要ですか?
新しい機能は必ずいいもので自分の生活を大きく変えて豊かにしてくれるものなのだろうか。そしてその新機能は自分にとって必要なものなのだろうか。
我が家の車は8年前に買ったものだ。その後、家にはその時の自動車ディーラーから毎月のように新車発表会や試乗会のお知らせが送られてくる。ボクは特に興味もないのでそのままゴミ箱行きだ。どうして興味が無いのか?今の車で十分に用は足りているし買い換える必要がないからだ。
それは8年前に新車を買ったときにも感じたことである。それ以前は中古で買った車に乗っていたが15年も経った車はさすがにあちこちに不具合が出て車検のたびに修理に相当なお金がかかるようになっていた。そんな修理費もモッタイナイのでしばらくは不具合が出ない(と思われる)新車を買うことにした。

ディーラーでどの車にするかを選んだ後に担当者は「オプションはどうしますか?」と訊いてきた。どんなオプションがあるのかと尋ねるとETCやカーオーディオ、カーナビ、電動スライドドア、空力パーツなどが載ったパンフレットを見せてくれた。「いらないなぁ」というと「カーナビはほとんどの方が付けてます」という。「いやボクは知らない道はほとんど走らないし必要な時はスマホの地図を見るから」と言うと担当者は残念そうな顔を見せた。実際のところボクが普段走る道は既に知っている道ばかりだし知らない土地に行ったときもスマホで不便を感じたことはない。すると「ETCやオーディオは必要でしょう?」と言う。ボクが今の車に付いているオーディオやETCも設定を変えて付け替えて欲しいと言うと「古いのを使うんですか?」というので「そうです」と答えた。機能もほとんど変わらないのでまったく問題なく使えていたが、ETCは6年後に故障して新しいものをネットで買って自分で取り付ける羽目になる。
電動スライドドアには安全装置が付いているので小さな子供がいても安心だというがあいにく我が家には子供もいないので関係ない。そもそも50男にそんなに小さな子供はそうそういるものではない。結局ダイビング器材を積んだ時に海水で中が濡れないようにするマットだけを付けてもらった。

当時はまだなかったが緊急時自動ブレーキだって同じことである。世の中を見て欲しい。ボケっと運転していて前の車に追突する人なんてそうそういるものではないしボク自身30年以上運転してきてそんな目にあったことはない(思い切り追突されたことはあったが)。つまりほとんどの人は事故を起こさないのである。日本人の半分が罹ると言われているガンの保険とは違うのだ。もしものことを考えればないよりあったほうがいいに決まっているが、自動ブレーキがあることで慢心するよりも常に事故を起こさないように緊張して慎重な運転をしたいと思っている。それでも自分に自信が持てなくなった時には免許証を返納して運転をやめるまでだ。

■誰も考えないイノベーションの意味とは
よくよく見ていると本当に自分が必要なものなんてほとんどないことに気づく。逆を言えば自分が「欲しい!」と思うような機能があればどうしても欲しくなるのだ。それは機能だけに限らない。
イノベーションとは最近よく聞く言葉だ。イノベーションとは心の中の無意識の部分でその人が欲しいと思っている機能や使い方を”提案すること”である。
いくらたくさんの新機能を見せられても自分が欲しいと思わないなら”凄い”とは思っても自分にとってのイノベーションではない。だからイノベーションとは受け取る人によって違うのだ。

経営者や中間管理職は「イノベーションを起こせ!」と若い人たちの尻を叩くがイノベーションの本質がわかっていない人にイノベーションを起こすことはできない。