弱者の戦い方(その1)

前回お話した「ポジショニング」のお話の続きですが、もうちょっとお付き合いください。
日本には382万社の企業がありますがそのうちの99.7%はいわゆる中小企業です。中でもそのうちの90%が従業員20人以下(商業サービス業では5人以下)の零細企業です。つまりすべての日本の企業の9割弱が零細企業です。小さな企業は、資本力のある大手やNo.1企業と比べて弱者であることが多いわけです。というかほとんどの企業は「弱者」なわけです。
というわけで、今回は弱者の戦い方のお話です。

マネジメントの世界では圧倒的なNo.1企業を「強者」、そうでない2位以下を「弱者」といいます。”圧倒的”というのはどれくらいかというと、市場シェアでNo.2を約1.7倍以上引き離している状態だそうです。

日本の自動車産業で言えばトヨタが強者、ホンダも日産もスバルもマツダも弱者です。一見すると強者も弱者も入り乱れて熾烈なガチバトルをしているように見えますが、実は裏には巧みな戦略があって、弱者は弱者なりの戦い方で攻めているんですね。

同じ業界内で圧倒的な強者や、明らかに自分より強い者を相手にしなければならない時、「どうせ無理」と思っていませんか?
しかし、強者には強者の戦い方があり、弱者には弱者の戦い方があるわけで、弱者が「強者と同じ戦い方をしても勝てない」のです。

割とよく例に出されるのは戦国時代の「桶狭間の戦い」です。今川義元勢2,000に対して織田信長軍はわずか300。圧倒的に不利な状況でも織田軍は今川義元を破りました。そこにあった織田軍の戦略とは、

 1.局地戦で戦う
 2.戦力を一点に集中する
 3.一騎討ちに持ち込む
 4.接近戦に持ち込む
 5.陽動戦をやる

などです。これはビジネスの世界にも持ち込めます。
どうしてこんな戦国時代の戦の話なんか持ち出したのかと言えば、このような戦略は第一次世界大戦中にイギリス軍の航空エンジニアだったランチェスターという人が考え出したものなんです。彼は自分の開発した戦闘機が実践でどれくらい成果を上げるのかに興味を持って研究しました。その結果、兵力数と武器性能が敵に与える損害に大きく関係することを解明し、これを数字の上で説明できることを発見したんです。
だから最初はちょっと血なまぐさい話になっちゃうんですね。それではビジネスの話に戻しましょう。

「1.局地戦で戦う」「2.戦力を一点に集中する」とはどういうことでしょう?
兵力(資本)がふんだんにあれば戦場(市場)全体に資本を大規模にばらまいて競争できます。昔、運動会の花形だった騎馬戦でいえば、グラウンド全体に騎馬を配置して大将が「行け―!」と号令をかけて全員が入り乱れて戦うスタイルです。でも相手が10騎、こちらが3騎しかなかったら、入り乱れた途端にボコボコにされちゃいますよね。じゃあどうする?
こちらは3騎全部を使って相手の1騎を囲んでボコボコにするんです。他の相手が後ろから襲ってきても相手をしないで、多少痛い目に遭っても目の前の敵の1騎を潰すわけです。つまり「1.自分たちが勝手に区切った狭い範囲」に「2.自分たちの力を集中」してその中で狭い範囲の中で優位に立つわけです。最初から全部の敵を相手にしてはダメです。少ない騎馬を分散させてしまっては、それこそ相手の思うツボです。そこここで形勢が逆転した3対1の戦いで全てが潰されてしまいます。

相手の残った9騎は敵が自分たちに向かってこないので「あれ?」と思うでしょう。でも戦略がなければ集中砲火を浴びている見方に加勢することはほとんどありません。自分の陣地を守ることに一所懸命で、作戦と違うことをやりたがりません。

弱者は強者を潰すことはまずできません。なので狭く区切った範囲でNo.1になるのです。弱者が強者に向かって正々堂々と戦いを挑むのは日本人的には潔さが感じられますが、結局は玉砕してしまった昔の日本軍を見るようですね。

では「3.一騎討ちに持ち込む」とはどういうことでしょう?
これはよく言われる「差別化をする」と考えてもらえばいいと思います。差別化というとすぐに思いつくのが”商品の差別化”ですかね? 他では扱っていないものだったり、独自の技術でマネできないものを開発する。そんなところでライバルに勝つことが頭に浮かぶんじゃないでしょうか?
他にはセールスや販売方法で差別化する、なんて方法も考えられます。つまり強者(=大手)がやらない、またはやれない方法でセールスする方法です。
一般に大手は効率の悪いことはやりたがりません。

「味の素」がスーパーマーケットで実演販売をしているところなんて見ませんよね。大手はそんなことをするよりテレビCMをバンバン打って卸売業者や小売店に売らせたほうが効率よくたくさん売れるわけです。
でも弱者が大手のマネをしても勝ち目はありません。そもそも卸や小売店は大手のものを売りたがります。なぜなら”売りやすいから”です。テレビCMでみんなが知っていますから高くてもバンバン売れるんです。それに引き換え弱者の商品は安くしても売れないんですね。

面白い話があります。
或る弁当チェーンのフランチャイズ店の店長さんのお話です。フランチャイズですから扱っている商品は種類も値段も他のお店と一緒です。もちろんお店の立地は違いますが、それをすぐに変えるわけにもいきません。そこで店長さんが考えたのは”販売方法”と”お客さんとの関係性”でした。
お弁当屋さんには毎日のように買いに来てくれるお客さんが少なからずいます。そんな顔なじみのお客さんには、お客さんの名前を聞いて次に来た時からは名前で呼びかけるようにしたんだそうです。またお弁当が出来上がるまでの待ち時間にお茶を出すサービスを始めました。最初はお客さんも
「えっ?お弁当を買いに来ただけなのにお茶を出してくれんの?」
と不思議がったそうです。

そして常連客には住所を教えてもらって、季節ごとにお礼の葉書を出したり、従業員が調べた町内の情報や顔写真付きで店員さんの紹介などを書いた
お店独自の新聞まで作って配布したんだそうです。
そんなことを3年も続けていたらいつの間にかお店の売上げは3倍になり、地区で業績No.1のお店になったんだそうです。

大手やライバルがやりたがらない細かくて面倒くさいことをコツコツとやることで地域のお客さんとの絆が深まったのだと、店長さんはお話していました。