蛇口を閉めない人

NHKで「AIが考えるニッポン人」というような番組をやっていた。日本人数万人に対して調査したデータをAIが分析して「これからの日本はどうするべきか」を提言しようという大それた番組だ。もちろんAIは「〇〇すべき」なんてことは言わないのでAIが出したデータを人間が勝手に解釈するわけだが「結局最後は人間が解釈する」というところにインチキ臭さがあって割と面白い企画だった。
AIがどういうロジックでものを考えるのか、いやAIは考えるということをするのかしないのか、まで含めてボクはまったくわからないのだが、元になるデータをインプットすると何らかのロジックでコンピュータが計算処理をして結果がアウトプットされるということは間違っていないと思う。ただ従来のコンピュータは事前に決められた式の中にパラメータを入れて計算させるのに対して、AIはその式をケースバイケースで自分で生成するのかな、などと思ったりはしている。というわけで結局のところ、AIが何をしているのかボクはまったく分かっていない。

さて、番組で取り上げられていたのは「日本人の満足度」というテーマだった。満足度を測る指標を何にするのか?そもそも満足度なんて測って比べられるのかという根本的な疑問は残るが、今回のテーマは「満足度」だ。
人間は何をもって満足するのか。単純に考えれば「欲しかったものを手に入れる」と満足するのだろう。それはお金であったり地位や名誉であったり権力であったり恋人であったり誰かの優しさであったり永遠の愛だったりするのかも知れない。人それぞれに「自分に足りない」と思うものを欲しがるのだろう。
でも欲しいものを一つ手に入れると今まであんなに欲しがっていたものなのにそれはどうでも良くなり、別の何かが欲しくなることはよくあることだ。つまり常に何かを欲しがっているうちは満足しない、ということになる。
逆に「もう欲しいものはない」と思うことが満足することなのだろうか。確かに「満足」とは「足る」に「満ち」ていると書く。自分にとって十分に足りていることが満足なのかも知れない。

さて番組でAIが出した結論は「お金に困っていても蛇口をこまめに閉めない人は”仕事に対する満足度”が高い」のだという。もちろんAIがそう言ったわけではない。出てきたデータを人間がそのように解釈しただけだ。
読み流してしまうと「満足度の低い人も水道を出しっぱなしにするようにすれば満足度は上がる」というように解釈されかねない。でも「逆」も「裏」も必ずしも正しくないことは以前にもお話した。命題に対して常に正しいのは「対偶」だ。この命題の対偶とはなにか。
「満足度が低い人は蛇口をこまめに閉める人」だ。ただこれは事実を述べているだけで「じゃあどうしたらいいの?」という質問の答えにはなっていない。
そもそも、(蛇口をちゃんと閉めないような)だらしない人はすべてに鈍感だから細かいこと(不満足であること)に気付かないから満足してるだけなんじゃないの?とも受け取れなくもない。いや、これはボクの個人的な解釈だ。

そんなことならAIに訊かなくたってもう既に分かっている。これではAI使う意味がなくて、人間の考えが浅はかなことをあぶり出すだけなんじゃないのかなとも思う。

明治生まれのボクの祖母はいくつもの戦争を乗り越えてきた人だった。彼女が生前によく言っていた言葉がある。「もうこれだけで十分」。
「足るを知る」ということをボクは祖母から教わった。彼女の話していた「もうこれで十分、これ以上欲しいものはない」と思うことが満足した状態なのかも知れない。

今のところAIは「何をすべきか」という問いには答えを出していない。これからのAIはそういうことまで考えてくれるのだろうか。