時差ランチ

ランチタイムはサラリーマンのオアシスである、と思った覚えはあまりない。企画なんていう仕事をしていると定時にランチを食べに行けることがあまりなく、職場の同僚や若い女性と楽しそうにお昼を食べながら歓談するなんてドラマのようなことはあまりなかった。ちょっと空いた時間に朝、コンビニで買ってきたサンドイッチをデスクで食べるとか、ランチタイムをはるかに過ぎた15:00、16:00、午後休憩のない近くの立ち食い蕎麦屋や牛丼屋で済ませるのが関の山だった。
それでも一時期、企画職を離れて監査室に異動になった時は社員食堂で毎日一人で食べていた。監査室は全部で4人。昼休みは室員全員が時間通りにきっちりとれた。というより昼休みの時間は厳格に決められていた。周りの同僚は愛妻弁当を持ってきていたり元職場の若い仲間たちと食事に出たりしていた。ボクはお弁当を作るのも面倒くさかったので1人で外食をしていた。

お昼になると社員食堂も街のレストランや食堂もラーメン屋もそば屋もとんかつ屋も、サラリーマンたちが退去して押し寄せ行列を作っていた。それは12:05~12:50の間だ。この時間は近所の他の会社のサラリーマンも一斉に昼休みに入るので、お店というお店に行列ができる。そんなときにも空いている店は、大抵が残念なお店だ。

監査室などというところは緊急の仕事が舞い込んでくるわけでもないので、ちょっとくらいフライングしてお昼休みをとっても誰も困らない。そこでボクは他の室員に「時差ランチ」を宣言した。ボクは12:00前にお昼を食べに行きます、と。当然誰からも異論はなかった。
11:55にいつもの人気店に行くとお店の中はガランとしている。行列に並ぶ必要もないのですぐに席に座って定食を注文した。いつもなら配膳まで10分ほど掛かるのだが、この時は3分ほどで出てきた。お客が少ないのでお店の人にもまだ余裕があるのだ。食べ始めた頃にお店の入り口が騒がしくなった。いつものサラリーマンの集団が大挙してやって来た。50席ほどのテーブルはすぐに満席になったが、一挙にお客が来たので店員もオーダーを取るのに時間がかかっている。
ボクは15分ほどで定食を平らげて混雑する店を出た。店に入ってから出るまで20分ほどだ。いつもなら10分は行列に並び、店員を待って料理を注文し、出てくるまで10分ほど待ち、店を出るまでに40分以上はかかっているところだ。しかし実際に食事をしている正味時間は今日より短いくらいである。これを非効率と言わずして何であろう。

ボクがこの日にやったことはみんなより10分早くお昼に出掛けただけだ。それで空いたお店で素早く出てくる食事を気持ちよく食べ、20分も時間を節約した。はっきり言って行列に並んで待っている時間はムダな時間だ。人生をムダに消費しているといってもいい。だからボクは「行列のできる〇〇」は嫌いだ。ラーメンごときを食べるのに1時間も2時間も待つなんて常軌を逸している、と思う。(意見には個人差があります)だから行列に並んでまで何かをすることはほとんどない。
最近、唯一並んだのは沖縄・那覇にある「ジャッキー・ステーキハウス」くらいだ。ここは那覇の他の店と比べてもステーキが抜群に美味しく、美人で気立ての良い店員さんがいるので那覇に行くと時々寄っている。昼どきをずらして行くので待ち時間は10分ほどだ。この店以外はまず並ばない。

日本人は何でも誰かと一緒にやりたがる。出勤時間も退勤時間も、お正月も5月の連休も夏休みもお盆もクリスマスも、ランチタイムも忘年会も新年会も、お花見も海水浴もキャンプもスキーでも何でも。だからちょっと話題になるとすぐに行列する。長期休暇中の高速道路はいつも大渋滞だ。行列のできる店は美味い店だと思っている。いや行列のできない店は不味い店だと思っているといってもいい。確かにその傾向はあるけれど、行列ができてごった返して騒がしくて店員がてんやわんやの店より、落ち着いて丁寧に料理を出してくれる店の料理のほうが美味しいとは思わないのか。少なくともボクにとって「行列に並んでいる時間」が料理をより美味しくしてくれることはない。

ただ旧態依然の日本人型企業では昼休み時間を厳格に守らないと、仕事もできない中間管理職に「サボって飯食ってる」と白い目で見られる。そんなこと言ってるから仕事ができないのだ。