炎上

ネットの世界では昔から「炎上」がしょっちゅう起きている。インターネットが一般的でなかった頃にはパソコン通信というものがあった。いってみれば会員制のネット掲示板の集まりで、いろいろな趣味やビジネステーマなどによってたくさんのジャンルの掲示板があった。一時流行った「2チャンネル」のようなものである。ただ違っていたのは”会員制”だったので、あまりに無責任なことを書いたりするとクビになって退会させられたり、身元がバレて全員から集中攻撃を受けたりすることだった。もっともその当時はネット人口もごく限られていたしある程度のコンピュータ・リテラシーも必要だったので、世間を騒がすようなことはまず起こらなかった。

20年ほど前から通信環境が急激に進歩してインターネットが一気に普及し、画像も使えないパソコン通信を使う人は激減してインターネットに移行した。初期のパソコン通信の頃はアナログの電話回線でプロバイダのサーバ・コンピュータに接続していたが文字データを送るのが精一杯で、写真を表示しようとすれば1枚あたり1時間以上も電話を繋ぎっぱなしにしなければならなかった。
この頃から企業もホームページを作るようになったが、それは”誰も見ない”ようなつまらない内容だった。しかしホームページを持っていることが”先進企業の証”になっていた。ただ情報は企業が一方的に発信するだけのもので、閲覧者との双方向のコミニュケーションはまだない。

個人が自分のホームページを持って仲間同士のコミニュケーションを”自分の掲示板”でやり取りするようになると、企業もこぞって自社の掲示板を作るようになる。すると途端に企業へのクレームが書き込まれるようになった。あまりにもクレームが多く対応できなくなった企業は掲示板を閉鎖した。企業の中にはそういったクレームを「お客様の声」と捉えて経営に活かそうとしたところもあるにはあったが、ほとんどの経営者はその窓口を閉ざした。そうこうするうちに「2チャンネル」などの無記名で不特定多数が書き込める掲示板が登場する。これが爆発的にヒットした。「ネット炎上」時代の幕開けだ。

最初のうちは「苦情」や「気に食わないこと」を槍玉に挙げることから始まったが、それはすぐに誹謗中傷に変わった。何といっても書き込んだ本人が特定されないのだ。どんなに無責任な悪口でも書き込める。「いい」「悪い」ではない。イチャモンをつけたい人は何であれケチをつける。しかも企業の管理の外側だ。手も足も出ない。
企業側は「名誉毀損」などで応戦しようとするが相手が特定できないのでどうしようもなかった。仕方がないので”火消し”に躍起になるが火の手はほうぼうで上がる。このころはまだ企業にネット・リテラシーのある人はほとんどいなかった。「ひどい会社だ!」と書き込まれれば「私たちは常にお客様のことを考えて行動しております。そのために〇〇や△△に全社を上げて取り組んでおり…」程度のことを返信するのが精一杯だった。しかし”連中は不特定多数”なのだ。連中は理屈で論破しても仕方がない。そもそも理屈など通じない連中である。議論とは全く関係ないことを持ち出してきて「そもそもオマエは…」と言い始めるのが常道だ。議論の途中で「そもそも」という言葉が出たら収集は難しい。夫婦喧嘩を見ればわかる。「そもそもオマエは」「そもそもアナタは」と言い始めたら出口は見えない。

イチャモンをつけるのは楽しい。誰でも「自分のほうが勝っている」と思えるからだ。人は誰でも他人より勝っていたいという基本的な欲望を持っている。だからイチャモンをつけても自分の方が勝っていると思えなければ楽しくない。イチャモンをつけられても無視されたら、イチャモンをつけた自分のほうが劣っているように思えてしまうので不愉快になる。だからもっと理不尽なイチャモンをつけるようになる。

イチャモンにはつまらない通り一遍の応えを繰り返すに限る。理由の説明など必要ない。「オマエが悪い」と言われれば「悪くないと思っています」と言う。なんと言われようと「悪くないと思っています」と答え続ける。相手が「イチャモンつけても埒が明かない」と思うまで答え続ける。
安倍総理大臣はいつもそうしている。